昨年12月30日、ふくや公式Xが「契約満了のお知らせ」とするタイトルから始まる投稿をしました。Jリーグチームアビスパ福岡の監督人事を巡り、スポンサー「契約満了のお知らせ」を公表したことで、アビスパのサポーター・ファンだけでなく、Jリーグの他チームのサポーター、福岡の経済界までをも驚かせました。単なるスポンサーを超えたサポーターだったふくや以下一部抜粋します。2007年以来、弊社はアビスパ福岡様へのスポンサーを継続してまいりましたが、この度、諸般の事情により2025年1月31日をもちましてスポンサー契約が満了となりますのでお知らせいたします。契約満了に伴い、アビスパ福岡様支援商品の販売やサポーター様向け各種サービスは同日をもって終了とさせていただきます。また、来期のスタジアムグルメ出店も予定しておりません。ふくやさん(ここではあえてサポーターとしての「さん」付けで記述します)といえばサポーターからもJリーグ関係者からも、単なるスポンサーではなくチームを支援するサポーターと認識されていました。13年にクラブの経営危機が表面化した際には資金提供ではなく、「アビスパ福岡支援商品」を販売してその売り上げ全額を寄付すると発表し支援を呼びかけました。この呼びかけはアビスパサポーターだけでなく、全国のJリーグサポーターにまで広がり、わずか1か月でアビスパ支援総額は1,776万8,000円に登りました。それだけ熱心にアビスパをサポートしてきたふくやさんのスポンサー撤退ですから驚くのも無理はありません。 川原社長が指摘するレピュテーションリスク翌日の31日には川原武浩社長が「note」で「アビスパ福岡様とのスポンサー契約満了について」と題し、この件について投稿しています。スポンサー契約を満了とした理由については2点をあげています。1.アビスパ福岡でパワハラ等の事案が再発、もしくは過去の事案について再燃した場合、スポンサードをしている弊社に対してのレピュテーションリスク発生の可能性を排除できないから2.今回の監督選定のプロセスが、アビスパ福岡の基本理念「アビスパ福岡は、スポーツを通じて、子どもたちに夢と感動を地域に誇りと活力を与えます」と相違していると考えるから更に、中程に太字で「謝罪をすることと、それを被害者側が「受け入れ許した」かは別問題です」と釘を刺すような一文があります。「調査報告書から漏れている被害者の存在も否定できませんし、過去のことは全て解決済みであるというアビスパ側の見解に対して、確信を持つに至りませんでした」と続きます。ここにスポンサー撤退の真意がにじみ出ているように思います。 ふくやの経営理念とアビスパ福岡の経営方針のズレ株式会社ふくやは日本で最初に明太子を製造・販売した会社として全国に知られています。明太子が博多名物となったのも、ふくや創業者川原俊夫氏がその製法をあえて特許取得せず、希望する者にはその作り方を教えて広めたからでした。因みに、ふくやでは辛い(つらいとも読む)を使うことを避けて、味の明太子としています。川原俊夫氏は「利益は地域に還元」の思想の元、積極的に納税をし、意味のあるものには寄付や支援を惜しまない人でした。その創業者の意志を継ぐふくやの経営方針や思想は地元福岡では誰もが知るところです。経営不振に陥った「ごま焼酎の紅乙女酒造」やホワイトデーの発案でも知られる老舗和菓子店「鶴乃子の石村萬盛堂」などの再建にも手を差し伸べています。因みに、石村萬盛堂の現代表者は川原武浩氏です。スジとケジメを大事にする会社であることも、福岡の経済界では良く知られています。アビスパ福岡の「子ども達に夢と感動を、地域に誇りと活力を」という基本理念は、ふくやの思想と通ずるところがあります。欧州リーグのクラブチームのように、アビスパが福岡という都市の価値を上げ、世界に認知される力になることが期待されていました。勝利にこだわりJリーグで優勝することばかりを求めていたわけではありません。経営理念に掲げる「強い会社、いい会社」の「いい会社」とは、あらゆる人々を大切にしながら、社会全体に貢献していく企業としています。そのふくやさんがスポンサーから撤退(=支援打ち切)したのですから、アビスパ福岡の経営姿勢に疑問を投げかけたのだと私は受け止めました。一方で、Xに投稿された袖スポンサー写真の右下の目立たなく入れられた英文は、問題が解決すれば再びサポートするとのメッセージです。ここにも「らしさ」が表れています。フジテレビのスポンサーがCM差し止めに動いた背景アビスパ福岡の件は、サッカーに興味がある人か福岡の人以外ではあまり話題にもなりませんが、同じ頃もう一つ、日本中が注目していた事案がありました。中居正広氏の女性トラブルをめぐる一連の報道です。1月9日、中居氏は自身のサイトで「お詫び」を掲載(後の1月23日、中居氏はファンクラブのサイトで芸能界引退を表明)し、そのトラブルに職員が関与したとされるフジテレビの対応に注目が集まりました。1月17日、フジテレビの港社長が定例会見を前倒しするという形で極めて不誠実と言わざるを得ない会見を行いました。会見のタイミングやクローズなその形式、会見内容などが報じられると、フジテレビの番組提供やスポットでCMを流している大手スポンサー企業(トヨタ自動車、花王、NTT東日本、生命保険各社など70社以上)は、次々にCMの差し止め(ACへの差し替え)に動きました。中居氏のトラブルを伝える報道でも、川原氏のnoteにあった、「謝罪をすることと、それを被害者側が「受け入れ許した」かは別問題」が指摘されていました。CMの差し止めはフジテレビだけでなく、九州電力などがフジテレビが制作した番組にCMを流すことはできないと表明し、系列ローカル局にまで影響が及んでいます。CM差し替えを表明した企業はいずれもESGに取り組む、特に人権を重視する姿勢が強い会社ばかりです。フジテレビの社長会見でも、人権を重視する姿勢や職場におけるハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じていたかなどが明確に語られませんでした。CM差し替えに動いた各社は、人権を尊重しないと受け止められるフジテレビに、スポンサーとしてCMを流すことで自社のレピュテーションを下げるリスクがあるとの判断をしたと考えられます。アメリカではトランプ大統領がESGを否定するような発言を繰り返していますが、少なくとも日本はそれに追随することなく引き続きESGは重視されるでしょう。自社の取り組みだけでなく、取引先企業が人権を尊重せず、ないがしろにしているようであれば、いずれ自社のレピュテーションにも影響すると考える企業が増えてきていることは見逃せません。今後、ビジネスの取引契約を交わす際に、反社条項と同様に人権に関する条項が盛り込まれるようになるかもしれません。