昭和は「ふてほど」だった2024年の新語・流行語大賞は「ふてほど」でした。「ふてほど」こと「不適切にもほどがある!」は、「昭和おやじが令和にタイムスリップ!『不適切』発言が令和の停滞した空気をかき回す!」と番組紹介にある通り、昭和と令和を行き来することで感じるさまざまなギャップや違和感を描きだして話題となったドラマです。流行語大賞が発表された時には「ふてほど」なんて聞いたことが無い、という声も聞かれましたが、話題になったドラマ「不適切にもほどがある!」のことだとわかると、「あ、それなら知ってる」となります。スポニチは、最終回オンエア終了後には「#不適切にもほどがある」が「X(旧ツイッター)」の世界トレンド1位に輝くなど、大反響と報じています。東洋経済やダイヤモンドなどの経済誌でもとりあげられ、管理職の研修の題材に良いなどの話も聞かれました。「ふてほど」は昭和を懐かしみつつ、「不適切にもほどがある!」とその当時の価値観に別れを告げた番組だったように思います。昭和の価値観のおじさん達が普通の行為だと思っていたことは、令和の現代ではセクハラやパワハラなどのハラスメントにあたる許されないことだと、改めてわかりやすくドラマで突きつけたのです。自動車運転免許更新の時に見せられる、ドラマ仕立てのビデオのようでもあります。 「お客様は神様」を都合良く曲解2024年は「ふてほど」が流行語大賞を取るほどに、昭和の負の価値観をはっきり否定した転換点になった年と言えます。それは消費者やお客様に対しても同様です。昭和には、「お客様は神様です」というフレーズがいろいろなところで使われていました。「お客様は神様です」というフレーズがあまりに定着したばかりに、「客は神様だろう!」などと暴言を吐き、客だったら何を言ってもしても「神様だから許される」といった強引な曲解をしたカスタマーが現れました。「お客様は神様です」といえば三波春夫さんと重ねるのも昭和世代です。しかし、そのフレーズを流行らせ定着させたのは漫才トリオのレッツゴー三匹だといいます。ネタとして「三波春夫でございます。お客様は神様です」と使い始め、テレビでもお馴染みになってからのことです。しかし、このような曲解については三波春夫さんも心を痛めていたようです。三波春夫 オフィシャルサイトには、“「お客様は神様です」について”というページがありますのでリンクをご参照ください。 令和では従業員の保護は企業の責任にカスハラを受けた従業員が、企業を安全配慮義務違反などで訴える例も出てきました。一方で企業側でも人手不足も背景に、従業員保護は企業の責任という認識が大手を中心に浸透してきました。カスハラ対応マニュアルを整備したりするだけでなく、全日空や日本航空などの航空会社やJR東日本などの鉄道会社、流通サービス業ではセブンイレブンなどが「カスタマーハラスメント対応基本方針」を相次いで公表、カスハラに対し毅然と対応する姿勢を明確にしました。国や自治体なども法改正に動き始めています。カスハラに悩んでいた旅館・ホテル業界に対しては一足早く2023年12月に旅館業法が改正され、悪質なカスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った人の宿泊を拒むことができるようになっています。24年5月には自民党のプロジェクトチームが、過度な要求や理不尽なクレームはカスタマーハラスメント(カスハラ)として適正に対応するよう対策強化の提言案をまとめ、従業員保護策を企業に義務付ける法整備に言及しました。これを受け、厚生労働省は12月26日に「従業員を保護する対策を全企業に義務付ける」とした報告書をまとめ、労働政策審議会分科会に示し、了承を得ました。今年の通常国会で関連法案提出を目指しています。地方自治体でも、24年10月に全国初となるカスハラ防止条例が東京都で可決され、さらに、12月25日には、三重県桑名市で「悪質なカスハラは氏名公表する」とする条例が可決されました。いずれも今年4月1日から施行されます。これからは、カスハラから従業員を守るのは企業の義務となり、適切な対応をとらなければ法的にも責められることになります。東京都が12月に公開したカスタマー・ハラスメント防止に関する指針(ガイドライン)、厚生労働省のサイトでは、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルやカスタマーハラスメント対策リーフレットがダウンロードできます。これらを参考にしながら、それぞれの職場で適切なカスハラ対応マニュアルや指針を策定し、従業員を守る姿勢を示しましょう。 従業員を守らない企業はリベンジされる?Forbes JAPAN に気になる記事を見つけました。社員から企業への「復讐」リベンジ退職が2025年に急増する可能性「リベンジ退職」とは、社員が大企業に対して反撃する風潮のことで、具体的には、過小評価や燃え尽き、社風との乖離といったネガティブな体験に直面した社員が、突然退職することを指すとしています。アメリカの労働市場についての記事ですが、アメリカで起こっていることは、いずれ日本にもやってきます。ネガティブな体験には当然、各種のハラスメントも含まれます。日本企業にとっても大きなリスクです。人事評価サービスを提供するSHLのシニアコンサルタント、マレーズ・ベスター博士の言葉を記事から引用してこのコラムを締めたいと思います。「雇用主は、メッセージに耳を傾けるべきだ。進化しなければ、最も優秀な社員を失うことになる。時代遅れなビジネスモデルに拘泥し、柔軟性を取り入れることを拒み、社員の声を無視する企業は、最も打撃を受けるはずだ。現在の働き手は、選択肢やツール、より良い労働環境を要求するだけの自信をもっている。そして、こうした要求が満たされなければ、ためらうことなく退職するだろう。これは単なるトレンドではなく、急速に変化する職場の現実に適応せよという、企業にとっての警鐘なのだ」