物価高を背景にラーメン店の倒産件数が3割増1月7日、帝国データバンクから「ラーメン店」の倒産動向(2024年)調査レポートが公表され、サブタイトルは“「ラーメン店」倒産、前年比3割超の急増 過去最多を大幅更新 ラーメン店の3割が「赤字」経営、原材料コスト高が痛手”と付けられています。夕方のニュースなどでは窮状を訴えるラーメン店の状況も伝えながら、ラーメン店の倒産が増えていると報じました。国民食とも言えるラーメンはタピオカ店や高級食パン店のように流行に乗って急に店舗が増えていたわけではありませんし、ブームが去ったわけでもありません。レポートにも「国内グルメにおけるラーメン人気の高まりや、訪日客などによる需要増が追い風となった」と、来店客数や売り上げが減少傾向にあるわけではなさそうです。そして「一方で、原材料などの仕入価格や人件費、スープの炊き出しにかかる光熱費といったコスト増を価格へと転嫁できず、利益確保が困難となるケースが多くみられた」と続きます。国民食、B級グルメの代表であるラーメンは、トッピングなしで1杯あたり1,000円を超えると客足が遠のくといいます。よく言われるラーメンの「1000円の壁」です。そのため、原材料や光熱費が上がり、さらには人手を確保するために従業員の時給を上げるもそのコスト増加分をラーメン価格には反映しづらいのです。十分な利益を確保できる価格設定ができないまま、ずるずると赤字へと転落していったのでしょう。 2024年の倒産件数は1万件に迫る9,901件にこの1週間後の1月14日、同じく帝国データバンクが「年間件数3年連続で大幅増、1万件に迫る2014年以降で最多」とする2024年の倒産レポートを発表しました。倒産件数は9,901件(前年8,497件、16.5%増)、中でも『サービス業』(前年2,099件→2,547件、21.3%増)が最も多く、2000年以降で最多となりました。倒産理由は、「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」は734件、「人手不足倒産」は342件で初めて300件を超え過去最多を大幅更新、「物価高倒産」は933件判明し、過去最多を大幅に更新しました。ラーメン店などの飲食業はサービス業に含まれます。食材や光熱費、人件費の値上がりは営業利益を削っていきます。これだけあらゆる物の価格が上がると、コスト削減努力にも限界があります。ラーメン店と同様に同業の店舗が多い焼き鳥や大衆居酒屋なども、コスト増を価格に転嫁しづらく、何も手を打たなければ赤字となってしまいます。こうして「人手不足倒産」や「物価高倒産」に至るのです。 1000円の壁もドル建てなら7$弱欧米では日本のラーメンが人気となり、現地では日本円に換算すると3,000円を超える価格で提供されているのが普通です。日本はバブル崩壊後の失われた30年の間経済は停滞しGDPも伸びず、その間順調に経済成長を続けた諸外国にすっかり後れを取ってしまいました。日本を訪れる外国人旅行者にとっては、為替の影響を除いても日本の物価は安くなりました。アメリカではラーメン1杯20$程度だといいます。今の為替レート(1$=155円前後)だと3,000円ほどです。それがラーメンの本場日本では1/3の6$ほどで食べられるのですから嬉しいに決まってます。仮に円高が進んで1$=100円になってもまだ10$、アメリカの1/2の価格です。 観光地に拡がる欧米並みのインバウンド価格北海道のニセコや長野県白馬村など外国人観光客が多く訪れるスキーリゾートでは、ラーメン1杯3,000円で提供するお店は珍しくないといいます。海外からの観光客にとっては母国の日常価格と変わりません。東京ディズニーリゾートも入園料の値上げが続き、一番高いチケットがとうとう1万円を超えたと話題になりました。同じくアメリカ・カリフォルニアのディズニーランドも値上げが続き、昨年繁忙期シーズンチケットが200$を超えたと話題になっています。ディズニーランドのチケットも高くなったとはいえ、やはりラーメンと同様に日本の価格はアメリカの1/3です。観光地では「インバウンド価格」が一般的になり、そこに暮らす人の生活費も上がるため、地元の人にはより安いサービスを提供する「二重価格」制度を求める声もあります。そんななか1月28日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再建したことで知られる森岡毅氏率いるマーケティング会社の刀は、沖縄本島北部のテーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」を7月25日に開業すると発表しました。東京ディズニーランドやUSJを上回る約60万平方メートルの広大な敷地に恐竜や絶景などをテーマにした22のアトラクションを配置します。森岡氏は「テーマパークとして選ばれるのではなく、旅行の文脈で選ばれる施設」と強調しました。その一つの表れがインバウンド向け入場料金を国内客より高く設定する二重価格を採用したことです。「1Dayチケット」のインバウンド価格は大人(12歳以上)8,800円、子ども(4〜11歳)5,940円、国内在住者の場合、大人6,930円、子ども4,950円としています。 従来よりあった変動価格と地元割引ここ数年で、時期や需給バランスに応じて価格を変動させるダイナミックプライシングは定着してきました。もともと定価のない生鮮食品はダイナミックプライシングの最たるものですし、スーパーの夕方からの値引きも従来から行われていました。最近は、ホテルの宿泊費などはAIを導入してよりダイナミックに価格を変動させるようになり、客室稼働率も上がったといいます。商品個々の価格を変動させるのに対して、同じ商品・サービスでも年齢や居住地、誕生日やイベント達成などで割引価格を適用することも従来より行われています。公共交通機関や映画館などの子供料金や学割・シニア割引、テーマパークの都道府県民の日の県民割、最近では選挙の投票証明で割り引きしたり仮装や浴衣で割り引きなどもあります。このような地元割りやイベント割り引きは工夫すれば色々可能です。基準価格(正規料金)を高く設定し、条件を達成すれば割引を適用してお得価格で提供することは可能です。多くの飲食店ではメニューが壁や印刷物に記されているので、価格を簡単には変動できません。それでも、ボードや張り紙でハッピーアワーやタイムサービスのような特別価格を提供しているお店は珍しくありません。 何もしないでいると何も改善しない何か手を打たなければ何も改善しないことはわかっていても、目の前の忙しさに追われて思考停止になり、ズルズルと赤字を積み上げてしまっているお店は多いことでしょう。常連のお客様に申し訳ないとか、メニューを書き換えるのが面倒だとか、対策を先送りにしているとズルズルと赤字を増やすばかりです。飲食・サービス業に限らず、適正な価格に思い切って価格を上げ、常連のお客様や地元のお客様、あるいはイベント達成で値引きするなどお客様に喜んでもらいながら、利益率を上げる方法を考える。手遅れになる前に知恵を絞りましょう。