昨年12月の中居氏に関する週刊誌報道を発端とするフジテレビの対応が世間の批判を浴び、CMのスポンサー離れやフジサンケイグループの今後についても注目を集めています。第三者委員会の調査報告がまとまるのは3月末を目処としていますから、その結果が出るまでは大きな動きはなさそうですので、このタイミングで一度フジテレビの対応を危機管理広報の視点で振り返ってみたいと思います。今回の騒動の背景にあるフジテレビの組織風土や日枝久氏の影響力などについては考えず、問題発覚(週刊誌報道)を起点とした危機管理広報についての整理です。フジテレビ・フジサンケイグループの歴史や日枝氏がグループを支配するに至った経緯については、メディアの支配者(中川一徳著・講談社)に詳細に書かれているので(Amazonで読むことができるサンプルだけでも)一読をオススメします。 危機管理広報はどこを起点に動き出すべきか中居氏が女性との間に重大なトラブルを起こし(2023年6月)、巨額の解決金を支払い、そこにフジテレビ社員が関与した疑いを2024年12月19日発売の女性セブンが報じました。記事ではフジテレビ編成幹部が会食をセッティングしたとされています。後のフジテレビの会見でも明らかになっていますが、中居氏のトラブルについて知っていたのは港社長ほか数人に限られ、コンプライアンス部門や危機管理部門には伝わっていなかったので、危機管理広報の起点はここ(女性セブンの報道)になります。この時点であらゆる事を想定して動き始めなければなりません。しかも今回は、中居正広氏という超人気有名タレントが絡んでいるので、瞬く間にSNSやネットニュースで話題になることは間違いありません。事実、女性セブンの記事を受け、ネットニュースやSNSなどでは編成幹部や被害女性の考察が始まり名前までもあがるようになりました。 先ずすべき事は事実の確認と情報の統制知っていた港社長ほか数人の幹部にとっても、これまで外に漏れないよう隠していたことが突然表沙汰になろうという危機です。TOPが陣頭指揮を執って事に当たらなければならない事案です。このようなネガティブな報道で、しかも会社の業績に大きな影響を及ぼす、ブランドを毀損することが想定される事案では、速やかに危機管理を担当する部署が対応を協議しなければなりません。通常なら社長直轄の緊急対策本部を設置し対応に当たります。特に、マスコミだけでなくCMスポンサーやお取引先様、視聴者やお客様などから様々な問い合わせが殺到することは火を見るよりも明らかです。早急に事実関係を確認し、情報を整理し、対応窓口を一本化しなければなりません。スポークスパーソンを誰にするかも重要です。早急に、できれば報道当日中にコメントを出すなり会見を開くなりが必要でした。「事実確認の最中であるが、フジテレビの社員が関わっているとすれば会社として重大な事案と受け止めている」ことの意思表示が必要です。 事実確認と調査、そして会見女性セブンの記事を認知した時点で少なくとも実名が記載されている当事者の中居氏に、事実関係の確認をする必要があります。中居氏の聞き取りができれば、フジテレビ編成部の社員が関与したかどうか、関与したとしたら誰だったのかについても特定できます。社内で犯人捜しをするような事をすると混乱します(2023年に被害女性から相談があり、港社長に報告があがった時点で名前が判明していた可能性はあるものの)。憶測を排除した事実関係を迅速かつ徹底的に調査し、視聴者や関係者に対して透明性のある情報開示を行うことが重要です。また、社員が計画的にそのような場をセッティングしたのであれば重大な問題です。中居氏に女性トラブルがあったことを確認しながらその後も「だれかtoなかい」を継続した事の検証も必要です。社内のコンプライアンス体制についても調査を実施し、問題があれば見直し・強化し、再発防止策を講じることで、信頼回復に努める必要があります。中居氏(代理人弁護士も含め)とも協議しながら示談書に記された守秘契約の開示が許される範囲で一度フジテレビとして会見を開くべきでした。確認できている事実と調査中である事柄を開示して、その後の見通しを示しておくだけでも違います。できれば中居氏も同席しての会見が望まれますが、中居氏は拒否したでしょう。それでも、この時点でフジテレビとしては透明性のある情報開示をするという姿勢を明確に示して中居氏と向き合えていれば、その後の中居氏の行動や考え方も変わり、年明けの突然の悪手(チェックミス?のお詫び文、そして芸能界引退)は避けられた可能性もあります。 週刊文春の記事を受けてその翌週25日、週刊文春が続きます。この記事が出る前に会見ができていれば、記事内容も少し変わっていた可能性はありますが、基本的な論調は変えないでしょう。この文春の記事により、当事者としてのフジテレビの動向に注目が集まります。女性セブンの記事を受け、正常に危機対応(緊急対策本部や危機管理対策室の設置、調査など)フェーズに入っていれば、事実確認に重点を置いて調査が始まっているはずです。12月27日にフジテレビはA氏の関与を否定しましたが、これも調査中としていればよかったことです。後の調査で関与が認定される事だってあり得ます。文春も中居氏とトラブルになった日の飲み会について、A氏の関与は無かったと訂正していますが、これは結果論でしかありません。そして、年が明けて1月16日発売の週刊文春では、過去に開催された港社長や他の幹部も参加する高級料理店での大手芸能事務所社長接待の出席者や座席図も示し、上納とも表現される女性アナによる常習的な接待文化についての刺激的な記事が掲載されました。もう、記事の矛先は中居氏ではなく明らかにフジテレビになっています。マスコミや大衆、SNSの興味もフジテレビの接待文化記事の真偽に移っています。この記事が出た時点で、調査対象は社内外広範に広げる必要があり、客観的な第三者による調査が必要であることは誰の目にも明らかです。この翌日の17日に大きな富士山の絵を背景に、静止画のみ撮影が許可された定例社長会見を開きましたが、緊急対策本部や危機管理対策室が機能していればまず開催はあり得ません。第三者委員会による調査を前提に、調査状況などを鑑み、適切なタイミングで情報公開するとして、それまでにわかっている事実と調査項目、今後のスケジュールを知らせるという形での会見を開くと良かったと考えます。あんな不毛な10時間半にも及ぶ会見は避けられたはずです。全ては12月19日の初動が間違っていたと言わざるを得ません。港社長も中居正広氏も、フジテレビの他の関係者も、12月19日に時計を巻き戻したいと思っていることでしょう。クライシスマネジメントは初動の24時間が勝負なのです。