うどんが注目された2月2月は「うどん」が注目された月でした。一つめは福岡のローカルうどんチェーン「資さんうどん」の東京進出。「資さんうどん」が、すかいらーくホールディングスの傘下に入ったとの報道に驚いたのが昨年。そして今年2月、両国に東京初出店しました。開店日には170人が列を作ったと、テレビや新聞でもたくさん報じられました。 そしてもう一つ、東洋水産のカップうどん「マルちゃん赤いきつね」のアニメ動画広告の炎上が話題となりました。炎上といっても、実際にはマスメディアが炎上と報じただけで、「性的」と感じて指摘したごく一部の投稿に賛否のコメントが付いたものです。全体としては「性的」との指摘が過剰反応だと、マルちゃんを擁護する投稿の方が多かったこともあり、この「騒ぎ」に東洋水産は特にコメントも出さず静観を貫きました。現在でも赤いきつねのアニメ動画“赤いきつね 緑のたぬきウェブCM 「ひとりのよると赤緑」 おうちドラマ編“はmaruchanchannelで公開中です。 客観的なデータが示す「炎上」の本質「マルちゃん 赤いきつね」のアニメCMへの指摘は、女性キャラクターの描写に対するものでした。頬を赤らめ、ため息をつくなどの描写が、「性的すぎる」「気持ち悪い」と感じての投稿です。また、アニメ特有の表現手法に対して、「オタク向け」「不快」と感じる視聴者もいたようです。このように、アニメ動画の表現に対する感じ方は視聴者によって大きく分かれ、結果として「炎上」に至ったと考えられます。この「マルちゃん赤いきつね」アニメ動画広告の「炎上」をTDAI Lab 代表 福馬智生氏が“SNSで燃えた「赤いきつね」 1%の意見を巡り批判の連鎖”とする分析をNIKKEI Digital Governanceへ寄稿しています。ここに示された客観的なデータはとても参考になります。X上のコメントからサンプル6,059件を抽出し、AIを用いて詳細に分析したとあります。このような大規模なデータ収集・分析は資金力とノウハウを持った専門組織でないとなかなかできないことなので興味深く読ませていただきました。データの分析結果は、CMの表現を「性的だ」と感じている意見は、全体のコメントの中で64件(1.0%)とごくわずかに過ぎなかった。一方で「性的だと批判するのは過剰反応ではないか」という反応は1747件(27.6%)と大きな割合を占めた。とあるとおり、表現が「性的だ」として「炎上」したのではなく、そういう見方が過剰反応だと反発する多くの投稿がなされたことで、動画広告が「炎上」したかのように捉えられてメディアが報じたものです。結果、メディア批判やメディアへの不信感にも繋がり、メディアへの過熱報道批判も161件(2.5%)に及びました。 炎上を客観視し、分析や考察の投稿も多数一方で、「炎上」を客観視し分析や考察する投稿も多く見られました。その中には、ジェンダーバイアスやステレオタイプ的な女性の描写についての指摘もあります。男性が主人公の“赤いきつね 緑のたぬきウェブCM 「ひとりのよると赤緑」 放課後先生編”との2本立てで、男性版・女性版が作られたというのも背景にあるかもしれません。頬を赤らめる、うっとりした表情をする、甘えるような仕草など「女性らしさ」の強調が「男性向けの理想化された女性像では?」と批判されています。背景や部屋の佇まいなども、一部の視聴者にとっては男女関係の古い価値観を連想させ、「女性の役割を受動的に描いている」とも指摘されています。最近は、SNSでの「炎上」を冷静に考察しnoteなどにまとめる投稿が増え、そのような分析投稿への支持・不支持をXなどのSNSへ再投稿する行為も広がり、再び「炎上の元」に注目するというサイクルまでできあがってきました。このコラムもまさにその考察投稿の一つと言えますが。今回の赤いきつねのアニメ動画についても、そうして再生回数が増えたという一面もあるでしょう。因みに、3月24日時点で女性版のおうちドラマ編の再生回数は181万回に対し、男性版放課後先生編は63万回と、約3倍の開きがあります。 炎上しない動画作りのために心がけたいこと赤いきつねの動画広告は、結果として炎上とはいえないものの、想定外の注目を集めたことは事実です。アニメに限らず、たびたび炎上する動画広告。制作する際には何に注意すれば良いのでしょうか?まず、視聴者の年齢や経験、文化背景によって受け取り方が大きく変わるため、ターゲット層を明確にし、そのターゲットに合った表現が必要です。最近では昭和世代と令和世代の価値観の違いが何かと話題になっています。赤いきつねのアニメ動画でも指摘された、ジェンダー・ステレオタイプの表現も世代間で受け取り方も違ってきます。「女性らしさ」「男性らしさ」に偏りすぎる表現は慎重に検討しなければなりません。町おこしや地域ブランドにも採用されることが多い「萌え系」や「デフォルメ表現」は一部の層には好まれますが、他の層には抵抗感を持たれる可能性があります。動画広告は海外からも見ることができるため、思わぬ所で批判の対象となることもあります。過度な肌の露出や性的な表現はNGとする国も海外では少なくありません。海外でも展開しているブランドや商品の場合は各国の広告倫理基準や文化・宗教的な背景も確認しながら、グローバルな視点でチェックすることが必要です。公開前には試写会やフォーカスグループでの検討会を行うなど、制作者以外の目を入れたチェックが必要です。最近は、モニターに視聴してもらい、意見や評価をもとに修正することも少なくないようです。子育てや介護、家事などを題材とする動画は批判や炎上の火種が多く、企画する際には、制作者目線だけでなく当事者の目線でのチェックが必要なことはいうまでもありません。SNS時代では小さな違和感が飛び火して大きな炎上につながるため、慎重なチェックが必要です。 浮き彫りになったのは、ひとつの素材をきっかけに「仮想敵」のような批判対象が作られ、それをたたくことが議論の主軸となってしまうSNS特有の構造的問題である。実際に少数意見を述べた人の意図やニュアンスは置き去りにされ、さらには新たな「仮想敵」がつくられそこにまで火が及ぶことがある。と福馬氏も指摘しているように、SNSでは小さな素材をきっかけにバタフライエフェクトのように予期せぬ方向へ拡がっていきます。制作者は炎上の火種を提供しないよう、細心の注意を払わなければならないということです。