新年度がスタートすると、経営者や管理職の皆さんは全社員や新入社員、あるいは人事異動や組織変更で新メンバーを迎え、いつもとは違うかしこまったスピーチなどしたのではないでしょうか?こういう時、掴みに受けを狙ってスベることはありがちです。スベるのは自分が恥ずかしいだけで実害は無いのですが、時に失言を指摘されたりそれがきっかけで大問題になり、辞任や失職に追い込まれた政治家や企業TOPもいます。過去の事例を振り返りながら、その傾向を見てみましょう。政治家はリップサービスの失敗が多い国会答弁や取材インタビュー、地元後援会や企業イベントでの講演や挨拶など、公衆を前にして否定しようのない失言をし、発言の撤回や辞任に追い込まれる政治家は後を絶ちません。令和になってから記憶に新しいのは、森喜朗元首相。2021年、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長だった森喜朗氏のJOC臨時評議員会での「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」発言に女性蔑視だと国内外から批判が殺到し、会長を辞任しました。それ以前にも、ソチ五輪でフィギュアスケートの浅田真央さんが転倒した際に「あの子は大事な時には必ず転ぶ」と発言し大きな批判を浴びました。森氏は首相在任中に他にも数々の問題発言を追求されています。オリンピック繋がりでは、桜田義孝五輪担当大臣(当時)が2019年、東京都で行われた高橋比奈子議員(岩手1区、当時)の政治資金パーティーで挨拶した際、「(東日本大震災からの)復興以上に大事なのは高橋さんでございますので、よろしくどうぞお願いします」と発言し、被災者の心情を逆なでする発言として批判を受け、辞任しました。桜田氏も失言(問題発言と言うよりもピント外れや知識不足発言)が多く、野党やマスコミからたびたび厳しい追及を受けています。2022年11月、葉梨康弘法務大臣は武井俊輔議員(いずれも当時)の政治資金パーティーで「法務大臣は死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」「法相になっても金にも票にも縁がない」等と発言し、批判を受けて辞任しました。政治家の失言は、政治資金パーティーや講演会など、少し気を許して聴衆の受けを狙うような発言で多いようです。森氏の浅田真央さんに関する発言も、福岡での講演会の場でした。 マスコミによる切り取り、歪曲報道少し古いですが、所得倍増計画を打ち出し、戦後日本の高度経済成長に大きな役割を果たした池田勇人元首相は「貧乏人は麦を食え」や「中小企業の5人や10人」などの問題発言でも知られています。しかし、「貧乏人は麦を食え」や「中小企業の5人や10人」発言は池田勇人氏の実際の国会答弁とは少し違っています。「貧乏人は麦を食え」については、「所得に応じて、所得の少ない人は麦を多く食う、所得の多い人は米を食うというような、経済の原則に副ったほうへ持って行きたいというのが、私の念願であります」という答弁を、翌日の朝刊が「貧乏人は麦を食え」という見出しを打ったことで、あたかもそれが池田氏の発言のようになってしまいました。「中小企業の5人や10人」についても「正常な経済原則によらぬことをやっている方がおられた場合において、それが倒産して、また倒産から思い余って自殺するようなことがあっても、お気の毒でございますが、止むを得ないということははっきり申し上げます」と経営の原則を無視している企業が倒産するのはやむを得ないと発言しました。これを、翌日の新聞は「中小企業の五人や十人自殺してもやむを得ない」と歪曲して報道したものです。2007年、柳澤伯夫厚生労働大臣(当時)は島根県松江市で開かれた自民党県議の集会での、「女性は子どもを産む機械」 発言が問題になりました。人口統計学の話であると前置きをし、『これからの年金・福祉・医療の展望について』と題する少子化問題に関する発言でしたが、女性を機械に例えたことで、女性蔑視であると批判を受けました。この講演も、「機械って言っちゃ申し訳ないけど」「機械って言ってごめんなさいね」との言葉を挟みつつのもので、少子化の問題をわかりやすく伝えるための工夫でした。そのため野党による言葉狩りとの批判もありました。前述の森会長の「あの子は大事な時には必ず転ぶ」発言も、講演全体を通して聞くと転んだ浅田真央さんを擁護する内容でした。マスコミによって刺激的に切り取られたものです。政治家はどこで発言を切り取られるか、歪曲されるかわからないという前提で発言しなければならない、とてもシビアな職業と言えます。 謝罪会見で多い企業TOPの失言政治家の発言は、野党やマスコミが追及のきっかけを探して常にチェックしています。揚げ足取りや曲解、切り取りなど日常茶飯です。一方、企業の経営者の失言もたびたび報じられますが、その多くは謝罪会見の場でのことです。謝罪会見は、企業のトップが公の場で謝罪し、信頼回復を図る重要な機会です。しかし、緊張や焦りから失言をしてしまい、事態を悪化させてしまうケースも少なくありません。謝罪会見での失言は大きく分けると2つのパターンになります。1つは責任転嫁や言い訳。「私自身は知らなかった」「担当者が勝手にやったこと」など、責任を回避するような発言は誠意がないと受け止められ、批判を招きます。「業界全体でやっていること」「過去にも同様の事例があった」など、言い訳がましい発言も、反省の意志が感じられないと非難されます。中国の委託先工場での賞味期限切れ鶏肉使用が発覚した際の、マクドナルドのカサ・ノバ社長の会見や、ベネッセで起きた個人情報流出事件(システム開発・運用を行っているグループ会社の業務委託先元社員を逮捕)の際、原田社長の会見で発した「自分たちは被害者」発言などが思い出されます。2.つめは被害者への配慮不足と不適切な態度や言葉遣い。「一部のお客様にご迷惑をおかけしました」など、被害の程度を軽く見せるような発言は、被害者の感情を逆なですることがあります。失言ではありませんが、建築基準法違反報道を受けて記者会見をしたレオパレス21の田尻専務は「下請けの施行ミス」というスタンスで、謝罪をしているといよりも、どうして「俺が説明しなければならないんだよ」と怒っているようにも見える不満顔が印象を悪くしました。 謝罪会見よりも失言が多い場しかし、謝罪会見は通常めったに経験することではありません。企業経営者における失言の頻度では、なんといっても日常のハラスメント発言でしょう。セクハラやパワハラなどのハラスメントが元で解任された取締役はこれまでも多く報道されています。ハラスメント講習や研修は、経営者や取締役も自分事としてきちんと受講しましょう。