南海トラフ巨大地震「新被害想定」12年ぶりに公表今年3月、12年ぶりに南海トラフ巨大地震の「被害想定」が見直され、公表されました。災害に対する意識の高まりから、一般家庭での防災グッズや水や食料の備蓄は進んでいます。各自治体や企業の対策(耐震化や避難マニュアルの整備)も進んでいるはずですが、計算方法を変えたことで津波の浸水域が広がったことや避難が遅れた場合も想定したことから、最悪の場合の死者は29万8,000人と前回からわずかな減少にとどまっています。平日の日中に発生した東日本大震災では、多くの人が自宅ではなく職場や学校など外で被災しています。私もクライアントさんとのうち合わせに向かう地下鉄の、赤坂見附駅から地上へ出るエスカレーターに乗っているときでした。企業のオフィスや工場などの勤務先、市役所や郵便局などの公共施設、空港や鉄道の駅、ショッピングモールやテーマパークなど、災害が起きた瞬間に多くの人が滞在している可能性がある場所では、家庭同様に備えが求められます。 避難先となるオフィスでも災害関連死は起こりえる今回の被害想定で注目するのは、「災害関連死」が初めて試算されたことです。災害関連死とは、地震そのものではなく、その後の避難生活・健康悪化・精神的ストレスなどによって命を落とすケースのことです。最悪の場合5万2千人と東日本大震災のおよそ13倍にのぼると推計されています。南海トラフ巨大地震が、東日本大震災のように平日昼間に発生したら多くの人は自宅以外で被災することになります。政府や自治体も、「災害時はむやみに移動を開始しない」を基本とし、安全な場所にとどまることを推奨しています。南海トラフ巨大地震のような大規模災害において「災害関連死」を減らすためには、企業の備えが非常に重要となります。 各種ガイドラインも最新版をチェック東日本大震災や熊本地震、能登半島地震など大きな災害が発生する度にBCPの策定や見直しが進められていると思います。しかし、BCPに平時の備えまで踏み込んで記載されているか、それが守られているかは疑問ですし、何もなくても定期的な見直しは必要です。例えば、「東京都防災ホームページ」に掲載されている各種ガイドラインは定期的に更新されています。事業所向けガイドラインの最新版は令和6年7月26日に修正されています。また、令和4年3月には「事業所防災リーダー」制度をスタートさせ、登録(無料、ただし都内の事業所のみ可)すれば日ごろの防災情報や発災時の災害情報や防災イベントなどが直接届く様になっていますが、その存在を知らない企業担当者も少なくないでしょう。「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」では、“発災後72時間(3日間)は人命救助に重要な期間のため、従業員等の一斉帰宅が救助・救出活動の妨げとならないよう、発災後3日間は企業等が従業員等を施設内に待機させる必要がある”としています。3日分の水、食料、毛布、簡易トイレ、衛生用品などを備蓄するだけでなく、震災の影響の長期化に備え、3日分以上の備蓄に加え、共助の観点から外部の帰宅困難者(来社中の顧客・取引先や発災時に建物内にいなかった帰宅困難者など)のために、余分に備蓄する検討を促しています。南海トラフ巨大地震が発生すれば、東海地方から関西~四国、九州の太平洋側まで広く被災することが予測されています。上記のガイドラインは東京都のものですが、他の都市やエリアでも充分参考になる物です。一時滞在施設としてだけでなく必然的にそのまま避難所とならざるをえなくなる職場の備えは、それを想定した物になっているでしょうか? 危機管理マニュアルは正しく管理されている?防災マニュアルやBCPだけでありません。企業では各種の危機管理マニュアルや緊急時対応マニュアルが策定され存在しています。しかし、多くの企業ではマニュアルの策定をゴールとしてしまい、その後の見直しや更新作業が疎かになりがちです。社内にいくつの危機管理マニュアルが存在するのかを正確に把握しているでしょうか?東日本大震災を機にBCPを策定した企業では、最後に見直しをしたのはいつでしょう?危機管理マニュアルは自然災害だけでなく、事故、情報漏洩、不祥事など、企業活動に影響を与えるリスクに対応する目的で、想定されるリスク毎に策定されます。危機管理に対する組織の基本的な姿勢や方針に基づき、危機レベルの設定・被害予測などをもとに対応手順や役割分担などを明確に定めます。組織変更や人事異動があれば当然それに伴う変更や見直しも必要です。もちろん、設備投資や機器の更新に伴う変更に加え、技術の進歩や通信方法や移動手段の多様化などに合わせて現在~未来を想定した最適な物でなければなりません。 最終更新日を必ず記入し、年に1度の見直しをお手元のBCPや各種危機管理マニュアルの最終更新の日付を確認しましょう。平成だったり2020年以前の日付の物は冷蔵庫の中の賞味期限切れ商品同様、既に消費期限も過ぎているでしょう。災害に備えた備蓄品の入れ替えと同じタイミングで年に1度、各種危機管理マニュアルの見直しをするよう、ルーティンのスケジュールに組み込むようにしてください。