3月に「危機管理広報の視点で中居問題でのフジテレビの対応を振り返ると」というコラムをあげましたが、これはクライシス発現後のメディア対応について振り返りました。実際、メディア、それも在京キー局であるフジテレビTOPの記者会見としてあまりのお粗末さは目に余るものでした。メディア対応の重要性は知っているはずなのにです。フジテレビを対岸の火事と見ずにそもそも、フジテレビが記者会見を開くことになったきっかけは、放送事故を起こしたとかBPOから改善命令が出たとか、脱税や経営陣の不祥事が発覚したなど、社内外の誰にもわかりやすいものではありませんでした。中居正広氏の性加害問題がきっかけで報道がスタートし、そこにフジテレビの社員が関与したのでは?という疑いが指摘され、さらには古くからの社風やコンプライアンス意識に問題がある、と時間と共にその矛先が移っていき、フジテレビの会見となりました。フジテレビへのマスコミの追求が厳しくなっていく様や会見の様子、あるいは第三者委員会の調査報告を見ながら、明日は我が身(業界)と思った経営者もいるのではないでしょうか? 一つの不都合な真実が同業全体の問題に一つの事件をきっかけに業界全体に古くから続く悪い慣習が指摘され、次から次へと謝罪会見を開いた事例は過去にいくつもあります。2007年にはミートホープの牛肉ミンチ偽装事件をきっかけに、食肉の偽装や虚偽表示が立て続けに発覚しました。赤福や白い恋人の賞味期限まき直し事件、ささやき女将で話題になった船場吉兆の謝罪会見も同年で、この延長でした。また、2013年には東京ディズニーリゾートのホテルや軽井沢プリンスホテルなどが、実際に使用している食材と異なる食材をメニューに表記していることを発表しました。その後、阪急阪神ホテルズの23のレストランでも同様の不適切表示が発覚し、同社は2度の会見を行いました。この時フジテレビのような逃げの姿勢で会見をした結果、社長は辞任に追い込まれてしまいます。その直後からマスコミや世間の反応を見た50あまりの有名ホテルやレストランが雪崩を打つように「社内調査をした結果」メニューの不適切表記が見つかった、と公表しました。この「社内調査の結果」は、もともと承知の事実、業界の常識として長い間慣習化していたことだと誰もが考えたはずです。このように、古い体質のままの業界や組織では密かに隠している、あるいはそこに属している人たちには当たり前のことで悪いこととは思っていない慣習化した問題や犯罪が潜んでいる可能性があります。それが何かのきっかけで白日の下に晒され、飛び火するように自社でも対応を迫られ、場合によっては会見を開かなければならなくなります。また、タカタ製エアバッグのリコールでは、そのエアバッグを採用した自動車メーカーが消費者との対応を迫られました。納入部品や材料の不具合や不正が発覚した際も、対応しなければならないのは最終製品を出荷したメーカーや販売店になります。他社で起こったことを対岸の火事(今やっているドラマ、「対岸の家事」とは違いますよ)と、たかをくくっていると実は自社にも関わることだったということだってありえます。 危機管理としてのメディア対応準備自社での事故や不祥事に限らず、他社で発生した事故や不祥事などからの影響で、いつ会見を開かざるを得なくなるかわかりません。危機管理の一貫としてメディア対応については常に意識し、準備しておかなければなりません。他社に起因するトラブルで会見を開く際にやってしまいがちなのが、「自社は被害者」との立場を取ることです。このように準備なく誤った対応をすると炎上を招く可能性がありますし、その部分(コメント)はほぼ間違いなくニュースや新聞で取り上げられます。会見場にいる記者だけでなく、ライブ配信やニュース映像を通して視聴者は「態度」や「表情」も見ています。会社やブランドのイメージも毀損してしまいます。平時から、最低限のメディア対応の準備はしておきましょう。メディア対応の準備としてPR会社から提案されるのが、メディアトレーニング、模擬記者会見の実施などです。本番に近い形で記者役との質疑応答を練習し、反応の改善点をチェック・フィードバックして、経験値を高めます。しかし、経験値を高められるほど何度も模擬記者会見を実施するには、多くの人の時間とコストを投入しなければなりません。その上クライシスは想定した範囲で起こるとは限りません。十分な経験値を得るのはかなりハードルが高いと言えます。それよりも日常でも意識しながら改善することができる、非言語コミュニケーション=声のトーン、話すスピード、目線、姿勢、などのクオリティを高めましょう。コメント以上に非言語コミュニケーションが説得力に大きく影響する場合があるのです。 いざという時の為の最低限の準備はトラブルやクライシス時には、迅速かつ冷静な対応が信頼回復に繋がります。一方で誤った対応をすると炎上を招く可能性もあります。実際のクライシス発生時の会見では、基本的には準備が全てといえます。核となるメッセージの準備、想定される質問のリストアップ・Q&Aの作成、NGワードの確認などが必要です。そして、適切なスポークスパーソン(多くの場合は会社の代表者)が自分の言葉で説明ができる様、十分な打ち合わせをして会見に臨みます。可能であれば、会見前に模擬記者会見を実施し、スポークスパーソンが実際に質疑応答をシミュレーションすることです。しかし、万全な準備にはクライシスに対応できるスキル(広報だけでなく、法律や労務、化学知識など)を持つプロフェッショナルが必要です。しかし、よほどの大企業でない限りは社内にそのような人材を抱えることはできません。クライシスに社内だけで対応しようとすると、多くの場合は失敗をして取り返しがつかないことになります。そのスキルを持つプロフェッショナルパートナーを外部に求めるのが一般的です。ところが、旧ジャニーズ事務所が会見の仕切りを途中で変えたように、大手PR会社とはいえ必ずしも万全ではありません。クライシスへの最低限の備えは、その時に力になってくれるパートナー、プロフェショナル、あるいは相談先を確保しておくことです。