コンプライアンス違反倒産が過去最多に中居正広氏の性加害問題を機に、今年1月にはフジテレビのコンプライアンス軽視体質を問題視した大株主からは株主提案が出され、CMスポンサーは次々と離れていきました。ちょうど同じ頃、帝国データバンクから「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年)」が公表されました。2024年のコンプライアンス違反倒産は388件で過去最多、前年比37件(10.5%)増で倒産全体の約4%を占めています。2025年に入ってもなおコンプライアンス違反倒産が散見されており、意図的な法令違反、社会規範や倫理に反する行動が原因で倒産する企業が引き続き増加傾向のまま推移するとみています。違反類型別にみると、「粉飾」が95件(構成比24.5%)で最も多く、過去最多。コロナ禍の企業支援のために2020年に始まったゼロゼロ融資など、各種支援策が粉飾を覆い隠す結果となり表面化しづらい状況が続いていました。しかし、その猶予期間も過ぎ、返済期限到来のタイミングで発覚するケースが目立ち、増加傾向で推移していると指摘しています。こうなることは予め予想はされていましたが、今後もこの傾向は続くのでしょう。 2024年問題はこんな形でも次いで多いのが、労働安全衛生法違反や指定取消などの「業法違反」が72件(18.6%)。その内26件は「運輸業」です。2024年は4月1日に施行された働き方改革関連法によって、自動車運転業務の年間時間外労働時間が960時間に制限され、これが2024年問題として運輸業などにとって大きな課題となりました。その関連法施行直後の昨年5月、首都高5号池袋線下り美女木ジャンクション付近で、渋滞で止まっていた乗用車に大型トラックが突っ込み、追突された乗用車に乗っていた3人が死亡、3人がケガをしました。トラック運転手が自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われ、つい先日の5月20日に東京地裁で始まった初公判で起訴内容を認めました。「熱が38℃くらいあった」「風邪薬を飲んで運転した」「運送会社に借金があり迷惑をかけたくないという理由で運転した」などの供述があったといいます。一方、勤務先だった運送会社の元社長も代わりの運転手を手配するなどの必要な措置を怠ったとして、業務上過失致死傷の疑いで書類送検されています。大手の運送会社ではなかったので、代わりの運転手が手配できない背景があったとも報じられています。しかし、法律で義務付けられている出発前の点呼の未実施を常態化させていたことも認めており、運行管理記録には虚偽が記載されていました。会社に対しても何らかの行政処分は免れないはずです。 行政処分の端緒の多くは通報によるもの悲しいことに、このような労務規定違反や帳票類の改ざん、点呼の未実施などの違反行為をしている運送会社は少なくないようで、各地方運輸局が下す行政処分は毎月数十件にのぼります。トラックニュースによると、今年3月に関東運輸局だけで15社に行政処分を下したとしています。輸送施設の使用停止(トラックやバスの使用停止)となると、車両の緑ナンバーを外し車検証と共に定められた日数運輸局に返納しなければなりません。この間その車は使用することができません。監査の端緒(きっかけ)となったのは死亡事故などもありますが、それよりも労働局からの通報や法令違反の疑いがある旨の情報提供が多数を占めています。これが内部告発によるものなのかはわかりませんが、他の月や運輸局での行政処分の端緒も同じ傾向です。事故を起こす前になんとか改善して欲しいという現場や周辺からの願いなのでしょうか。死亡事故の原因も、労働環境や運行管理に問題があると指摘されることが少なくなく、改善は急務です。これは同時に荷主にとっての課題でもあります。 後継者不足につけ込まれて倒産も資金流出や横領といった「資金使途不正」が70件(18.0%)と3番目に多くなっています。相変わらず横領は減らないのか?と思ってしまいますが、これにはテレビ報道などでも問題視された悪徳M&A業者やコンサルによる不透明な資金流出も含まれます。その企業が意図してコンプライアンス違反をしたわけではないのですが、事業譲渡先からやってきた新しい代表取締役やCEOが不正に資金を流出させた後に放り出され倒産に至るというパターンです。これから、後継者不足のため事業承継に譲渡やM&Aを考える経営者は増えることでしょう。TVやネットでもM&A事業者の広告を多く見ますが、こういう悪徳業者に騙されないよう情報収集を慎重に行いましょう。 コンプライアンス違反はしない、させない運輸業の行政指導の端緒を見るまでもなく、コンプライアンス違反が明らかになるのはそのほとんどが内部通報や暴露によるものです。企業がこれを止めるのはほぼ不可能です。できるのはコンプライアンス違反をしないこと、させないことです。倒産に至らないまでも、ハラスメントや業務上横領、贈収賄などコンプライアンス違反に対する世間の目は厳しくなっています。この調査レポートのまとめでも「コンプラ違反の発覚は信用失墜につながり、取引先や消費者の離反を招くことから、倒産リスクが一気に高まる」としめくくっています。コンプライアンス違反をきっかけに社会的な評判を落とし、業績が悪化する例は、旧ビッグモーターやフジテレビの例を見れば明らかです。このコラムがアップされるのは、フジメディアホールディングスの株主総会直前。さて、株主総会では株主や世間、CMスポンサーを納得させる改善策を提示する事はできるのでしょうか?