30年ほど前、今のソフトバンクホークスの前身である福岡ダイエーホークスの本拠地だった福岡ドームは、ダイエーグループの(株)ツインドームシティが運営する施設でした。私はそのツインドームシティの広報部長でした。ある日、福岡の四季劇場でミュージカル「キャッツ」の公演が決まり、その舞台の小道具にホークスグッズを使えないか、と劇団四季さんからお問い合わせがありました。当時のホークスグッズの商品企画・販売はツインドームシティが行っていたのです。キャッツの舞台設定に福岡らしさを取り入れたいとのこと。それはいい話です。しかし、お断りしました。理由は最後に。増えるアポなし突撃取材のロケ番組近年、地上波のテレビ番組で増えているのは、アポなしの旅や散歩系バラエティ。出演するタレントが突撃で取材交渉をし、許可を得て初めて店内に入るというパターン。ほとんどの場合は問題なく取材許可が取れますが、たまに通常の営業活動の妨げになるとか他のお客様に迷惑がかかるから、あるいはそのタイミングでは対応できないからなどで取材お断りということもあります。番組的にはそんなハプニングもメリハリを付けるイベントとして想定内、多くはカットせずに放送されます。タレントさんとお店の人との会話も予め用意されたものではありません。「素」の会話が見ている人を笑わせたり時にハラハラさせたりと、次は何が起こるのか?と期待もさせます。それだけに想定外の事にも的確なコメントやリアクションを求められるタレント(あるいはディレクター)さんは大変だと思いますが、トラブルやハプニングは番組的には(視聴者も)大歓迎でしょう。 テレビや映画での露出はPR効果抜群一方、アポなしで突撃・取材される側にとっては、多くの場合は大歓迎。こちらからお願いしても来てくれるものではありません。有名な(場合によっては大ファンの)タレントさんがやってきて直接話もできるし、テレビで紹介してくれるのです。視聴率が良い人気番組で紹介されれば、それだけで知名度も上がり、放送翌日からお客様が殺到するというのはよく聞く話です。ドラマや映画のロケで撮影場所を提供すれば、「タイトル+ロケ地」で検索をするとたちどころに多くの情報が得られる時代です。聖地巡礼といって、映画やドラマのファンがロケ地巡りをし、そこでまたInstagramなどのSNSにアップ、それを見て訪問者が増えるというような効果もあります。残念なのが、私も大好きで毎週欠かさず見ている鉄腕DASH。国分太一さんの突然のコンプライアンス違反・TOKIO解散発表に起因する、出演部分の全カット差し替えは多くの人にとって想定外。ロケや取材に協力した人にとってはがっかりでしょう。過去にもこのような出演者の不祥事に起因するカットや差し替えはありますが、このようなことは取材現場では対応も想定もできません。 プロダクトプレイスメントもドラマに登場する小道具、例えば「鳩サブレー」は「続・続・最後から2番目の恋」や「海のはじまり」など、いくつものドラマで鎌倉土産として登場します。「続・続~」は11年ぶりの続編で視聴者は私のような中高年が中心。私たちの世代では「鳩サブレー」は今更説明する必要も無いほど鎌倉土産としては当たり前です。ところが、目黒蓮さん主演の「海のはじまり」に登場すると、Xで「鳩サブレー」がトレンドワードになり製造販売元の豊島屋のサーバーが一時ダウンしたといいます。ドラマや映画の小道具などで特定の商品を入れ込むことを、「プロダクトプレイスメント」と言います。演出上の理由やストーリーの必然性から制作サイドで選ぶ場合もありますが、多くの場合はその番組の提供スポンサーやその関連企業の商品やブランドが選ばれます。映画の場合はエンディングロールに協力企業・ブランド名やロゴが流されます。ドラマも映画も、配信や録画、DVDなどで観る人が増えました。中には画像を止めて細部をチェックするマニアもいて、「発見」をSNSで報告するとそれがバズったり炎上したり、更にはネットニュースになり…ということもあるので、小道具選びには気を遣うようです。 取材・制作協力する際の注意点人気YouTuberやインフルエンサーと言われる人が使ったり紹介したりすると売り上げが急激に伸びる、問い合わせが増えるという例もあります。そのような人が紹介するからと、商品や飲食の提供を要求されることがあります。取材協力や商品提供が見返りとなって情報発信される際には、広告であることを明示しない場合、ステルスマーケティング(ステマ)と見なされ景品表示法違反となるリスクがあります。テレビの取材でも同様で、番組で紹介される飲食についても、今は全て代価が支払われています。逆に代価を請求しないまま放送された場合は、ステマと見なされる可能性もあります。また、取材対応中に居合わせた他のお客様に不快な思いを与えていたり、紹介され急にお客様が殺到したことでサービスのクオリティが保てなくなったりして些細なトラブルを殊更に悪くSNSに投稿されることもあります。提供した商品やサービスの取り扱いや紹介のされ方が意図したものではなかったり、ネガティブな評価をされたりすることもあります。ネガティブな情報は通常の情報よりも拡散力が強く、一度広がると収束させるのが困難です。横浜市はドラマ「119エマージェンシーコール」制作に際し、2024年11月にフジテレビとの間で連携協定を締結し、横浜市消防局がドラマ制作に協力していました。しかし、同局のコンプライアンス違反が問題になったため2025年1月限りで協力クレジットは取り下げられました(撮影協力は継続)。自衛隊や海上保安庁、大手航空会社や鉄道会社などが実名で撮影に全面協力する映画やドラマは少なくありません。しかし、この「119エマージェンシーコール」の例のように不測の事態が発生するリスクも想定しなければなりません。取材協力や商品提供を行う可能性がある企業や店舗は、事前にルールや対応策を設定しておく必要があります。特に禁止事項(他の顧客の映り込み、厨房撮影、商品の取り扱い方法など)と協力打ち切りに関する事項は明確にしておきましょう。 劇団四季からのオファーをお断りした理由冒頭の劇団四季さんからの打診をお断りした理由は、舞台の隅にホークスのメガホンが転がっているというその扱い(設定)。キャッツの舞台設定は街の片隅のゴミ捨て場です。相談の電話を受けた担当者はちゃんと想像できて、「お断りした方が良いでしょうね」と。メガホンはただそこにあるだけですが、舞台を見た人は「そのメガホンは試合に負けた帰り道、ファンが路地裏に投げ捨てたんだろうな」とか、「負けが続いて愛想尽かされたんだな」、などと想像してしまうかもしれません。打診を受けた当時はまだホークスは万年Bクラスから脱することができず、ファンからも厳しい視線が向けられていた頃です。せっかくプレイスメントできても、ネガティブに捉えられては逆効果と判断しました。SNSが無い時代でしたが、今ならどんな風評が立つでしょうか?