組織ぐるみの不正はいずれ告発される5月30日、福島県のいわき信用組合が預金者に無断で口座を開設し、架空融資を繰り返すなどしていた問題について、第三者委員会が調査結果を公表し大きな波紋を呼んでいます。顧客の名義を悪用して不正融資を繰り返し、不正総額は少なくとも247億円に上るといいます。元会長ら旧経営陣が主導し組織的に続けられていたことや、PCをハンマーで破壊するなど複数の証拠隠滅行為があったと調査報告書で指摘されました。小説・ドラマの題材になりそうな事件です。内部監査・コンプライアンス体制が形骸化し、経営陣自らがガバナンスを崩壊させていたとして、金融庁から業務改善命令が発出されました。不正が明るみに出たのは昨年9月、X(旧ツイッター)でいわき信組の元職員を名乗るユーザーが告発したことがきっかけでした。組織ぐるみの犯罪や組織の風土体質などに問題がある場合には、元従業員や場合によっては在職中であっても通報や告発をする人が出てきて明るみに出るのが令和なのです。このようなお金にまつわるトラブルは個人商店から大企業・官公庁まで、額の大小を問わず後を絶ちません。一方、いわき信金のように多くの人が関わり組織内で公然の秘密のような不正と違い、従業員・職員単独の横領・着服は巧妙に隠し続けます。何かのきっかけで突然明るみに出て、「あの人が!?」ということがほとんどです。 金融機関で相次ぐ着服2024年から2025年にかけて話題になった横領・着服事件だけでも相当な数に上ります。昨年12月、三菱UFJ銀行の元女性行員が顧客の貸金庫から金品を盗み、被害額が十数億円に上ると報じられました。この事件報道をきっかけに、みずほ銀行でも支店の行員が貸金庫から顧客2人の現金数千万円を盗んだとして2019年に懲戒解雇の処分にしていたと公表しました。昨年10月には、群馬銀行の行員が顧客から預かった約5535万円を着服し、賭博に使用したとして問題となりました。今年3月、十八親和銀行でも、男性行員が2020年6月から2024年10月までの約4年間にわたり、顧客から預かった通帳を使って無断で預金を引き出すなど約9200万円の現金を着服したとして懲戒解雇になっています。いずれも銀行の監視体制の甘さが批判されました。かつては、生保レディが顧客から預かった巨額のお金を着服した事件も話題になりました。このような報道がされる度に「信用して金品・財産を預けている金融機関でこのようなことが起こるなんて!」「自分の担当者は大丈夫だろうか」と疑心暗鬼に陥る顧客もいるでしょう。その都度、内部管理体制の不備が指摘され、信頼が揺らぐ事態となりました。 公務員・準公務員・教職員でも着服・横領5月に宮内庁係長級侍従が、皇室のお手元金「内廷費」から約360万円を着服した疑いが浮上し、大きな注目を集めました。ニュースを見て、「宮内庁の職員が皇室のお金に手を出すなんて!」と驚いた人も多いでしょう。私たちの世代だと、20年以上も前の青森県住宅供給公社巨額横領事件を思い出します。公社の職員がチリ人女性アニータさんと結婚し、横領したお金のうち約11億円がアニータさんへ渡ったとされました。チリに豪邸を建てたりと、横領事件と共にその使い道も注目された事件です。チリに帰国した後も日本のテレビや新聞が度々取材してアニータさんの近況を紹介するので、いつまでも記憶から消えない事件です。昨年10月には、朝日新聞が“なぜ大金を横領できたのか「アニータの夫」が語った悔恨とざんげ”を初回に「アニータの夫」とする全13回の連載をしました。身近な教育機関での着服は度々ニュースになります。昨年、旭川市教育委員会は、市立中学校に勤務する男性事務職員が保護者から預かった286万円を着服したと公表。同じく昨年10月、弘前市の小学校で給食費などが不正に引き出され、約154万円が不明になっています(会計を担当していた事務職員は死亡)。今年に入ってからも鹿児島市の公立中学校職員が6年7カ月の間、学校徴収金など178回にわたって着服し、総額は約1480万円にのぼり、会計年度任用職員を懲戒免職処分にしたと発表。5月には十日町市の市立学校の教職員が保護者から集めた学校預かり金の一部、総額約98万円を着服し、自身の借金の返済や生活費に充てていたことが明らかになりました。他にも検索すれば同様の着服事件がローカルニュースなどでいくつも報じられています。 相次ぐ弁護士による預かり金着服学校での給食費や預かり金の着服、公務員の公金着服もびっくりしますが、法に携わる弁護士の預かり金着服はそれ以上にビックリ!かもしれません。テレビで過払い金返還請求のCMを盛んに流して宣伝していた大手弁護士法人「東京ミネルヴァ法律事務所」は、約25億円の預かり金を不正に流出させたとして、令和6年2月、第一東京弁護士会が除名処分としました。法人は約51億円の負債を抱え、破産しました。他にも全国各地で弁護士の横領や着服が発覚し、逮捕・起訴される弁護士が後を絶ちません。弁護士による依頼者からの預かり金着服が相次いでいることを受け、日弁連も問題視。6月15日の定期総会で横領対策の新たな規則を可決するに至りました。 求められる「信頼を裏切らせない」仕組み作り着服や横領をした人は、いずれも通帳や印鑑などを1人で管理する立場でした。第三者のチェックや監視が行き届かない、あるいは信用され任されているという信頼を逆手にとった裏切り行為です。戦後・高度成長期の会社は終身雇用で家族のような一体感を重視する社風のところがほとんどでした。性善説でお互いを信頼し協力し合い、会社も自身も成長し、給料も上がるという一億総中流といわれた時代は終わりました。令和は、従業員を信頼しつつも、「ついできごころ」や「魔が差した」あるいは「苦しいからちょっと借りるだけ」など心に隙ができても、そちらへ走らせない仕組みを整えるのが経営者の義務とも言えます。通帳と印鑑を別な人や場所で管理するだけでも着服のハードルは上がります。キャッシュレス化もその流れの一つです。最近のスーパーやコンビニのレジはセルフ化が進み、スタッフが現金を扱わなくなり着服しづらくしています。従業員から犯罪者を出せば、企業やブランドの信用や社会的信頼を失うことにも繋がるのです。現金だけでなく、お金を動かすことができるポイント(送金指示など)で、不正を行う隙が無いか管理体制やチェック体制を今一度確認しましょう。どうしても身内には目が曇りがちです。第三者に依頼することをオススメします。