出生数70万人割れの衝撃2024年の出生数が70万人を切り、686,061人となったことが発表され世間に衝撃が走りました。戦後生まれの団塊の世代は、毎年200万人以上、ピークの1949年は2,696,638人ですからその1/4です。戦後のベビーブームとその子ども世代による1970年代前半の第2次ベビーブームは特別として、(第2次ベビーブームピークの)1973年の2,091,983人からはほぼ一貫して減少し続けました。本来なら第3次ベビーブームがあっても良かったはずですが、それもありませんでした。戦後初めて出生数が100万人を割り込んだのは2016年。今年の参院選に出馬表明し、国民民主党からの公認取り消しなどで物議を醸した山尾志桜里氏が、「保育園落ちた日本死ね!!」を取り上げて国会で待機児童問題を強烈に批判した年です。これをきっかけに国会周辺で待機児童問題への抗議デモなども行われました。この年からわずか8年で出生数は3割も減ってしまいました。待機児童どころか児童が減って閉園に追い込まれる保育園も出ています。この8年間にはコロナ禍という特殊要因もありましたが、このペースで減少が続くと、単純計算では8年後には出生数が50万人を割ってしまいます。 組織の要職は第2次ベビーブーマー世代今、企業や組織の要職を占める50代は、同級生が200万人もいた第2次ベビーブーマーの世代です。しかし、これからの新社会人は同級生が100万人前後の世代です。半分です。しかも、これからどんどん減っていきます。新社会人の相対的な価値は上がるばかりで、人材の獲得競争はますます激しくなるでしょう。自分たちが育ってきた時間、空間や環境とは全く違う環境で育ち、全く違う価値観の若者であることを理解できないなら採用もままなりません。若手の採用どころか、働き手の減少はどの業界でも深刻です。人手不足を克服するためにスーパーではセルフレジが、ファミレスでは配膳ロボットが当たり前になったように、企業活動のあらゆる場面で省力化、無人化を進めなければ今の経済活動はいずれ立ち行かなくなるでしょう。既にアメリカの工場では人型ロボットの導入も進んでいます。 生産性の向上を目的に人員削減6月は上場各社の株主総会が集中する月でした。なかでもコンプライアンス問題で揺れるフジメディアホールディングスとドタバタ続きの日産自動車の株主総会は注目され、どちらの総会も株主からの質問が相次ぎ長時間に及んだようです。総会を終えて会場から出てきた株主へのインタビューなどが盛んにニュースで流れていました。日産は業績不振から2万人の人員削減をすると5月に表明しています。一方、パナソニックホールディングスも5月に1万人の人員削減を発表しています。パナソニックは業績が急に落ち込んだというわけではありません。アメリカに目を移すと、amazonやマイクロソフトなど業績好調な企業が次々と人員削減を表明しています。狙いは生産性の向上です。「従業員1人当たり売上高」に投資家の注目が集まっていることも背景にあります。経営者も意識せざるを得ません。生産性を上げることで人員を削減するのではなく、人員を削減することで生産性を上げようとしているのです。 人が必要なのは自動化できない職種のみに日本ではまだそれほど生成AIを業務に活用できていませんが、アメリカでは生成AIの活用でホワイトカラーの仕事を劇的に効率化し人員削減が進んでいます。特に管理職が削減対象になっているようです。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(毎日新聞 経済プレミア)では、生成AIの台頭で、経営者は従業員が今より少ない未来を想像できるようになった。電子商取引サイト構築サービスのショッピファイと外国語学習アプリのデュオリンゴでは最近、今後の新規採用について、自動化できない職種であることが前提条件になるとCEOが通達した。と紹介しています。 生成AIの活用が生産性を左右する時代にIT化、DXに加え、生成AIの活用で定型の事務処理だけでなく、文章や資料作成などのデスクワーク、企画やアイデア出しといったクリエイティブな作業でさえ劇的に時間短縮が進んでいます。かつては会議室に集まって行っていたブレーンストーミングや企画会議も、生成AIと対話形式で打ち返すことで、どんどん精度を上げて多くの人の時間を奪うことなくある程度の物を作り上げることができるようになりました。複数の人の力を借りるのは最後の練り上げや精度の向上、リスクのチェックなどで済むようになり、最も重要なのは判断や決済となります。 マーケットの変化や技術の進歩から目を背けるな私は、2010年から2018年まで育児の情報誌(フリーペーパー)の発行人・プロデューサーでもありました。少子化が進む日本の子育てを取り巻く社会状況や子育て支援策、海外の子育て先進国などを取材して情報提供をし、提言もしてきました。その間2009年、2010年の出生数はほぼ107万人で横ばいでしたが、そこから緩やかに減少し始め、2016年についに100万人を割り込んでしまいました。出生数の減少に伴いベビー・子ども関連のマーケットは縮小していくのを肌で感じました。フリーペーパーは広告収入によって成り立っていますので、単独での継続は難しいと判断し2018年に事業を手放しました。離乳食の定番メーカーだったキユーピーも、来年8月で育児食(ベビー・幼児食)の製造・販売を終了すると発表し、話題になりました。 戦争やテロ、革命といった予測できないことをきっかけとするマーケットへの影響は避けることはできません。しかし、人口減少と、生成AIの普及がもたらす生産性向上やサービスの変化は確実にマーケットに変化を引き起こしています。この現実から目を背けることなく、自社が置かれた現在地のリスクを冷静に分析する必要があります。手遅れになる前に。