ポケモンカード目的で転売ヤーが買い占め夏休み、子ども達が大好きなマクドナルドのハッピーセットを巡り世間がざわつきました。「ポケモンカード」とコラボした「ハッピーセット」が一部の客に転売目的で大量に買われたり、カード以外のバーガーや飲み物などが店に置き去りにされたり捨てられたりしたのです。マクドナルドのハッピーセットといえば、小さなお子様がいる家族ではお馴染み。バーガーやナゲットにポテトやサラダなどのサイドメニュー、飲み物、それに本やおもちゃが付いて500円ちょっとの子ども向けお得なセット。ファミレスのおまけが付いたお子様ランチみたいな位置づけです。サイトには「ハッピーセットは『ほん』や『おもちゃ』で、子供たちが夢中になって遊びながら、いきいきと自分らしさを発揮し、発達することをサポートしていきます」と記載されています。また、「おもちゃリサイクルのページ」ではおもちゃのリサイクルや3Rなどエコ・地球環境について考えるコンテンツも。「エコを学ぼう」のページでは、3Rで地球を守ろう!考えよう!「ゴミのポイ捨て」といった文言が列びます。それなのにハッピーセットが真逆の食品ロスを引き起こしたのです。 ナゲットの炎上からの信頼回復を果たしたのにマクドナルドの炎上と言えば、2014年に発覚した中国で生産したチキンナゲットの消費期限切れの鶏肉使用や床に落ちた肉を平気で原料に戻すなどの動画がネットに上げられ、テレビの画面でも度々流されました。日本マクドナルドの社長に就任したばかりのカナダ出身のサラ・カサノバ社長は、マクドナルドは被害者だと発言したために、顧客や消費者・マスメディアには反省していないと受け取られ反発を招きました。年明け直ぐにもタイで生産したチキンナゲットに異物が混入して再び炎上。2月の決算発表はカサノバ社長の謝罪からスタートしました。この時のカサノバ社長はヘアスタイルも服装も、メガネさえも変え、前回の会見とは別人のように冒頭で深く頭を下げました。日本の消費者・メディアとどう向き合えば良いかを理解したのでしょう。その後信頼回復に努め、業績は順調に回復しカサノバ氏は19年に会長に。昨年、家族と過ごす時間を優先したいとして日本マクドナルドの会長を退任しました。 ハッピーセットの意味よりも数字優先に?カサノバ氏と入れ替わるように昨年7月に社長に就任したのが、香港出身のトーマス・コウ氏。米マクドナルド出身で数字やマーケティングに強い人物と評されます。事業会社の日本マクドナルドだけでなく、今年の3月にはホールディングスの社長兼CEOに就任しています。業績は回復したものの伸び悩む客数に不満だった米国本社が、数字に強いトーマス・コウ氏を社長にしたのではと業界紙などでは書かれています。私も過去に米国企業の日本法人のマーケティングをお手伝いしていました。本社のマーケティングディレクター(部長クラス、30代くらいの女性)と対面で話したことがありましたが、「直近のクォーターの数字が重要、1年や2年先のマーケットを観ての戦略など興味が無い」と言い放たれました。彼女は半年後により大きな会社に転職していきました。確かに、1年後の数字は意味が無かったわけです。実績を上げて更に上を目指すのなら、数字さえ上がれば日本での評判など気にしないのかもしれません。コウ氏も来年、転職したりアメリカの本社に戻ったりしていなければ良いですが。 過去に同じような騒動はいくつもあったのに過去にも、Jリーグやプロ野球などの選手カード入りスナックで、カードだけ取ってスナックを捨てる行為が問題になったことがあります。限定品の争奪で混乱した例も多くあります。私には今回のポケモンのハッピーセット騒動は、2014年の東京駅開業100周年記念Suicaの販売の混乱と重なります。鉄道関連の記念切符などの発売時には、鉄道ファンが全国から駆けつけます。記念Suicaの販売は東京駅のみで販売数は15,000枚。多くの購入希望者が殺到するのは容易に想像がつきました。案の定、販売開始時刻には少なくとも9,000人が並んでいたといい、混乱したために途中で販売を中止。改めて希望者全員に販売すると発表しました。マクドナルドでは、今年5月の「ちいかわ」とコラボしたハッピーセットでも転売問題が起こり、批判が殺到していました。人気が高く、高額で取引されるケースも多いポケモンカードとコラボすれば、同様の問題が起こることは最初からわかっています。それでも実施したのですから、確信犯と思われても仕方がないでしょう。記念Suicaは、ネットオークションサイトに販売日に出品され、日経新聞はこの日のうちに20万円で落札された例もあったと報じました。ポケモンカードは世界中で人気です。マクドナルドは転売ヤーが狙うことはわかっていて混乱を避けようとはしなかったのです。 消費者庁も見過ごせない事態新社長は少子化が進む日本のマーケットにおいて、子ども達をターゲットにしたハッピーセットでは売上げや利益への貢献度合いは小さいと考えたのかもしれません。子ども以外でも多くの人が買ってくれるセットを作れば、話題にもなり売上げが上がると考えても不思議ではありません。8月21日には消費者庁が食品ロスを防ぐため販売方法を改善するように要望し、堀井奈津子長官が会見しました。食品ロスや現場の混乱を見て見ぬ振りをし、売上げ数字を優先する企業姿勢に業を煮やしたのでしょう。これを受け、29日から予定していたONE PIECEとのコラボも見送りとなりました。さらにサンリオとのコラボ「シナモロール」の絵本配布についても延期すると発表しました。消費者庁が動かなかったら、この2つのコラボハッピーセットの販売も強行していたかもしれません。予定通りに、これも世界的に人気のONE PIECEコラボハッピーセットが販売されていたら、捨てられたバーガーの写真などが再びネットにあがり続け、メディアも更に批判的な報道になったでしょう。そうなれば消費者庁としても更なる行政指導などを出さざるを得なかったでしょう。 TOP交替のタイミングは要注意企業に限らず政治の世界でも、あるいはスポーツや教育、他の世界でも、総理・首長・党首や監督、理事長などTOPや指導者が交替すると、それまでのやり方を否定したり、あえて違うやり方を導入したりすることはありがちです。保守的な組織に良い変化をもたらせられれば良いですが、混乱を招いたり業績や成績を悪化させることも少なくありません。強引な手法や手前勝手な変更が、顧客離れや評判を落とすことに繋がることもあります。目の前の数字ばかりを追い求めて短期的に業績を上げても、消費者や社会からの信頼を損なえば長期的な成長は望めません。