9月は都会に居ても月見バーガーの販売開始と共に季節の変わり目を感じる月です。ところが今年は残暑が続き、東京は9月29日まで真夏日となってしまいました。秋の訪れを告げる中秋の名月も、例年なら9月中(昨年は9月17日)なのに今年は10月6日。まるで秋の訪れが遅くなるのを天が見越していたようです。そんな9月は、新浪剛史氏のサントリー会長の電撃辞任のニュースで始まりました。新浪氏のサントリー電撃辞任発表の裏には何が?9月1日に新浪氏がサントリーホールディングスの会長を辞任した事を受け、2日にサントリーホールディングスが緊急記者会見を行いました。辞任は新浪氏が麻薬及び向精神薬取締法違反(輸入)容疑で福岡県警により家宅捜索を受けた事に起因します。福岡県警が7月に摘発した違法薬物事件の捜査過程で、関連先の一つとして新浪氏の名前があがったため捜索対象となりました。対象となったのは、米国から輸入した大麻由来成分「THC」を含む製品(サプリメント)とされます。新浪氏は県警の捜索でも取締役会でも、その後の記者会見でも「適法な製品だと思っていた」「私は法を犯しておらず、潔白だと思っている」と主張しています。家宅捜索は受けましたが違法薬物は見つからず、尿検査でも陰性で逮捕はされていません。しかし、サントリーホールディングスの取締役会は、サプリメントを製造販売する会社の会長が違法性を疑われるサプリメントを輸入したことを問題視し辞任を要求、新浪会長は9月1日付で辞表を提出しました。 サントリーホールディングス捜索対象になった大麻由来成分THC(テトラヒドロカンナビノール)は花穂・葉・根を原料にして抽出される成分で中枢神経系に作用し、幸福感、幻覚、知覚の変化、記憶や集中力の低下などを引き起こすとされます。繰り返し使用することで精神的な依存が生じるリスクがあり、長期的な乱用は認知能力の低下や精神障害を引き起こす可能性があり、若年層が使用した場合は脳の発達に悪影響を及ぼすリスクもあります。THCは「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されており、含有が微量でも違法となる可能性があります。一方、CBD(カンナビジオール)は大麻草から抽出できる成分の一つですが、成熟した茎・種子から抽出され、THCのような「精神活性作用」はありません。そのため、医療・健康領域で幅広く研究が進められています。CBDは、日本で流通可能なのは「成熟した茎または種子」由来のCBDに限られ、合法的に販売されているCBD製品は、原料証明や検査証明を通過したものに限られます。CBDは不安・ストレスの軽減、睡眠の質改善などを謳う健康食品やサプリメントとして販売されています。また、てんかん治療薬としての有効性も期待され、臨床研究が進められています。 新浪氏は繰り返し潔白を主張9月3日、新浪氏は経済同友会の代表幹事としてサントリー会長を辞任後初めて“公の場”に姿を現し会見。家宅捜索を受けた違法性を疑われるサプリメントについての質問が相次ぎました。新浪氏は海外出張が多く時差ぼけなどで睡眠が取れないことがあり、「睡眠をとる上で、非常に役立つというので買ってみました」とCBD製品の購入を認めています。購入を認めた上で、「CBDという商品の、いわゆる書いてある内容、そういったものもちゃんと読みましたし、その中に違法性のあるものが入っているという表記もございません。そういった意味で、私はこれは大丈夫ということと、大変著名な方からもこれは大丈夫と。そして、色々な方が飲んでるという、こういう情報もありましたんで」「グレーの認識は全くありません。100%このCBDは大丈夫だという認識だった」と、繰り返し身の潔白を主張しています。 サプリを扱う会社の会長としてCBD製品の輸入手続きは確認しなかったのか?日本で合法的に販売されているCBD製品は、原料証明や検査証明を通過したものに限られます。そのため、個人輸入・事業者輸入に関わらず、CBD製品を海外から持ち込む場合にはTHCが含まれていないことを示す分析証明書の添付など細心の注意が必要です。新浪氏の騒動を受けて、NewsPicksのYouTube番組ではNewYorkの大麻関連商品販売店を尋ね、現地取材していました。そこで、現地スタッフに合法性の質問をすると、「飛行機に持ち込むとかは絶対にやめた方が良い」「国境を越えたり、州境でさえ越えない方が良い」「ここから(州を越えて)移動することさえ許可されていないので違法」と答えています。店内には旅行者への注意喚起の張り紙もしてありました。東京税関のサイトには「CBD関連製品」のページがあり、「厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部にCBD関連製品の確認手続きを依頼し、麻薬に該当するか否かの確認を行ってください」とあります。CBD関連製品の確認手続きについては、厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部のサイトに「CBD関連製品の麻薬の非該当性確認について」というページがあり、「CBDオイル等のCBD関連製品の輸入を検討されている皆様へ」とするpdfで手続き方法が詳細に記載してあります。これらをクリアしないと、「違法サプリ」「違法薬物輸入」 と見なされるリスクがあります。少なくともCBDが大麻由来の成分であり麻薬取締法の規制対象であることは新浪氏も認識しているようです。新浪氏がNewYorkなどの正規の店舗で購入した経験があるのであれば、購入時に注意も受けている筈です。サプリメントに携わる会社のTOPとしてもCBD製品の日本での位置づけは認識していたでしょうし、扱いや輸入に関しては細心の注意を払うべき立場です。それなのに自分の行動についてはチェックが甘くなってしまったのでしょうか。経済界で有名人の新浪氏だから注目され、記者会見で潔白を主張することができます。しかし、普通の中堅・中小企業の経営者や従業員が同じようなことで捜索を受けると、釈明の場は与えられず、たとえそれが誤解や無実であったとしても風評被害に繋がることもあります。麻薬は使用者に害を与えるだけでなく、その購入代金が反社会的組織の資金源にもなっています。反社会的な組織との繋がりを疑われたりすれば、取引や経営に影響を及ぼしかねません。誰かが「これは大丈夫」というときに、「本当に大丈夫なのか?」と疑い確かめる習慣を持つことが大切です。今はAIに問いかけるだけでも注意喚起してくれます。一手間を惜しまないことが、不要なリスクを回避することに繋がるのです。