初の女性首相誕生で日本のガラスの天井は破られたのか?先の首班指名選挙で高市早苗氏が選ばれ、日本初の女性首相が誕生しました。アメリカ大統領選でヒラリークリントン氏が破るかと言われていながら叶わなかったガラスの天井を、日本が先に破ったのです。国外のメディアでもこの出来事を「ガラスの天井を破った歴史的瞬間」と報じました。しかし、首班指名された直後、「全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いてまいります」と演説したことで、多くの働く女性は期待を裏切られたと感じたかもしれません。長時間労働を是とし、ここまで進めてきた働き方改革を見直すような姿勢も見られます。組閣においても女性閣僚の増加も期待されましたが、結果は片山さつき財務相と小野田紀美経済安保・外国人政策相の2名だけでした。日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位で、G7では最下位です。韓国(101位)や中国(103位)よりも下位に甘んじています。特にギャップが大きいのが政治と経済の分野です。政治分野の順位は148カ国中125位、経済分野は112位です。高市首相が打ち出した政策・思想は「ジェンダー平等」や「女性の社会的地位向上」を積極的に推進するようなものではなく、むしろ保守的・伝統主義的であり、同性婚反対、皇位継承は男性のみ維持など、性別役割の固定に近いスタンスです。保守的な企業経営者にとっては有り難い傾向と受け止められたかもしれません。イタリアで可決されたフェミサイド法G7参加国の中で日本の次にジェンダーギャップ指数が低いのはイタリアで148国中85位、EUの中でも下位に位置しています。そのイタリアで11月、世界が注目する法案が下院の全会一致で可決されました。ジェンダー(女性差別)を理由に男性が女性を殺害する「フェミサイド(Feminicide)」を独立した犯罪とし、有罪となった場合は自動的に終身刑となるのです。日本語でフェミサイドに相当する単語が見つからないのでイメージしづらいですが、日本に置き換えて一例をあげれば、ストーカー殺人は自動的に終身刑になるということです。今後イタリアでは、女性であることを理由に「憎悪、差別、支配、制御、または従属の行為」として行われる殺人や、女性が関係を終わらせたために起こる殺人、あるいは「女性の自由を制限する」ために発生する殺人にフェミサイド法が適用される、とBBC Newsは伝えています。EUでフェミサイドの法的定義を刑法に導入した国は、イタリアが初めてではなく4カ国目。今後も女性に関する固定観念や男性優位の概念が勝る国では、同様の法案が提起される気がします。根強く残る男性優位、性別役割分担意識さて、日本に目を向けると、高市首相が保守的・伝統主義的な考え方で経済政策を進めると、女性の社会進出は進んでも質は変わらず、正社員・管理職は増えず、地位も向上しません。日本は「母親は子どものために家にいた方がよい」「男性は外で働き、女性は家庭」という考え方への支持が先進国の中で非常に高いことが、性別役割分担意識に関する国際調査や多くの大学での研究論文で指摘されています。これは高市首相を支持する日本の保守層の意識と重なっています。そして同様に日本の旧来の経営者や組織に根強く残る意識です。これは企業文化、学校教育、メディアの報じ方、家庭内の価値観などにも影響し、結果として構造の変化にブレーキをかけることとなっています。ジェンダー差別が企業にもたらすリスク組織でジェンダー差別(昇進格差・賃金格差・ハラスメント・固定的役割意識など)が残っている場合、企業はビジネス・法務・人材・ブランドなど多方面で長期的なリスクを抱えることになります。ジェンダー差別が強い組織は男性が育休を取り辛く、長時間労働が常態化し、多様なライフスタイルが許容されないなど、「男性も損をする」文化になりやすい傾向があります。そのような組織では声を上げにくい、改善提案ができない、さらにはハラスメントを恐れる等の環境が生まれます。職場のジェンダー差別の空気が放置されると、セクハラ・マタハラ・パワハラなどのハラスメント訴訟リスクも高まります。組織責任者が処分されるだけでなく、企業トップが引責辞任したケースもあります。労働局からの指導、企業名公表などの行政リスクもあります。1件のハラスメント事件でも、公になれば不買運動や顧客離れにつながる例は過去にいくつもありました。ハラスメントの内容や背景次第では「古い」「封建的」「女性を大切にしない」というレッテルが貼られ、企業のブランドイメージ・価値を大きく毀損することもあり得ます。目指すべきは多様性を認める心理的に安全な組織ジェンダー差別が強い組織では女性だけでなく、多様性を重視する若年層全体が企業に魅力を感じなくなります。心理的安全性が低い組織はミスが報告されない、生産性が低い、不祥事が隠蔽されるという様々な研究結果が国内外で共有されています。結果として組織全体の疲弊、離職、パフォーマンス低下に繋がります。優秀な人材は流出し採用難に陥り、評判が悪い企業には優秀な候補者は当然応募してきません。退職率・採用コストが上昇するという長期的な競争力の低下にもつながります。ジェンダー差別は成長を阻害する一方、多様性がある組織はイノベーション率が高いという実証研究も多く存在します。高市政権下で労働基準法が約40年ぶりに大改正される見通しです。労働時間規制の緩和方針なども漏れ聞こえてきますが、19年に施行された働き方改革関連法から再び昭和の働き方に戻ることを期待するのは誤りです。労基法がどう改正されるかの前に、心理的に安全な働き方ができる職場を目指しましょう。