週刊誌のスクープ記事は日々世間を賑わせ、時にはテレビのニュースさえもそのスクープ記事の話題一色になることがあります。中でも文春砲とも言われる週刊文春のスクープ記事は、その情報収集力・取材力に裏打ちされた大きな破壊力を持ちます。テレビや新聞、大手出版社の場合は許認可権を持つ官公庁やスポンサー、大手芸能プロダクションなどとの関係を考慮して報道を控えたり扱いを小さくしたりする場合もあるようですが、文春砲は忖度無しです。その文春砲が、国民的人気デュオ コブクロの黒田俊介さんの不倫に向けられました。記事が週刊文春(5月12日発売)に掲載されることを知った黒田さんは直前の5月10日に、裁判所へ出版差し止めを求める仮処分を申し立てます。しかし翌11日、東京地裁は「差し止めの要件を充足しない」とし、週刊文春は予定通り発行されました。しかも、出版差し止めの仮処分申請をした黒田さん側の行動や謝罪の仕方は、週刊文春の電子版に新たな記事ネタを提供してしまいました(詳細は電子版編集部コラム第8回)。タカ派で知られた花田紀凱編集長の頃から度々物議を醸しだし、世間に問題提起を突きつける記事を連発し、多くの訴訟と闘いながら今に至る週刊文春です。しっかりした裏取りはもちろん、記事にする時点では最悪訴訟を起こされることも想定内でしょう。もしもスクープされた本人がそれを認めず、記事は虚偽や捏造だと出版差し止めや訂正記事の要求などしようものなら、次週は第2弾の記事が掲載されてしまいます。素直に認めて謝罪会見でも開けばそこで収束に向かうこともできるのにです。往生際が悪い場合に備えて二の矢三の矢を準備して待ち構えているというのが、過去に文春砲の標的になった人たちやマスコミでは共通の認識のようです。 往生際が悪いと収束に時間がかかるここは芸能人のスキャンダルについて詳しく解説する場ではありませんのでこれくらいにしておきましょう。しかし多く報じられた芸能人のスキャンダルや不倫報道を見ると、企業のリスクマネジメント・クライシスマネジメントの参考になる事例は多くあります。彼らの報道が過熱し、泥沼化して収束に時間がかかる時には共通する行動が見られます。ざっとあげると、罪を認識しているのに認めない、否定する嘘をつく、更なる虚偽・捏造に走る証拠を突きつけられて態度を急変させる言い訳をする、罪を相手(または別な誰か)になすりつける謝罪する相手を誤る黒田さんはこれらを全てやっていました。これは企業不祥事発覚後の対応でも全く同じで、やってはならない事です。商品やブランド・企業イメージ、レピュテーション(評判)の毀損によるその後のビジネスへの影響を考えられれば、このような行動がいかに不適切かは想像がつくはずです。※黒田さんの取った「悪手」が今後の芸能活動にどう影響するかは、デイリー新潮 「不倫デュオとなったコブクロ…アーティストとしての再起が厳しいと思うワケ」 として冨士海ネコさんが予想してまとめています。かつては石田純一さんや勝新太郎さんのように開き直るような発言をしても、その人のキャラクターらしいとメディア的には許容できたこともありましたが、令和の現代では許されないでしょうし、企業においてそれはありえません。もちろん、これは非がある場合で、非が無ければそれを証明しなければなりません。そもそも相手を見る目がなかったら独身や若い芸能人で未成年者との飲酒、喫煙や淫行がスクープされ、謹慎が発表される例も後を絶ちません。経歴詐称やすり替わりなんていうのもありました。詐称された側からすれば知らないこと。当人に罪の意識も加害者意識もありません。脇が甘かった、きちんと確認しなかったのが悪いといえばそれまでですが、それを知らされた時には後の祭りです。また、最初はいいお付き合だったのに、本性はとんでもない趣味や性格の人で別れることになり、しかしそれ以来何かと妨害されたりストーカー行為を受けたりという例もあります。企業活動においても、新規で取引を始める時にはよく見極めないと詐欺やもらい事故に巻き込まれることがあります。これから企業の成長戦略に最も重要な影響を与える採用についても、求める人材であるかどうかを見極めるためには高度なスキルと経験が求められます。詐欺に遭ったり騙されたり、採用に失敗した事がわかった時に「見る目がなかった」だけでは済まされません。企業のサイトに過去の実績やお取引先様を掲載するのは、信用の裏付けとして求められるからなのです。芸能人のスキャンダルの多くは当事者の一方が週刊誌などに告発することによって明るみに出ています。企業の不祥事発覚も、多くは内部告発です。内部に適切な通報窓口が設置されていないと、権限のある行政機関やその他の事業者外部(報道機関や消費者団体など)へ通報されます。週刊文春のようなメディアは、そのような情報を広く受け付けるために「文春リークス」というようなページを設けています。企業内通報窓口や行政機関よりも届け出る際の心理的・手続き的なハードルは遙かに低いのではないでしょうか(ただし、取り上げられるかどうかは別ですが)。文春砲の標的にならないためにも、企業活動を健全にし社内の通報窓口を整備することが重要です。