東京オリンピック・パラリンピックの大会スポンサー契約をめぐり、大会組織委員会の元理事へ賄賂を贈った疑いでAOKIホールディングスの前社長ら3人及びKADOKAWAの会長が逮捕される事件が注目を集めています。この事件では、大会組織委員会の理事が公務員ではなくいわゆる民間人であるのにもかかわらず、「みなし公務員」として収賄の罪の対象となる点も注目されています。そこで、受託収賄罪とみなし公務員への贈収賄リスクについて、今回の事件を踏まえた上で解説します。ポイントは支払いの趣旨2017年に元理事が代表を務める会社とAOKIとコンサルタント契約を結び、コンサルタント料の名目で5100万円が支払われています。その後AOKIは、2018年に東京オリンピックの組織委員会とスポンサー契約を締結し、公式ライセンス商品を販売しています。こうしたことから、東京オリンピックのスポンサーとなる契約をするにあたって便宜をはかることと引き換えに、元理事が金銭を受け取った疑いを理由に受託収賄罪に問われています。そして、元理事へ送られた5100万円が賄賂に該当する場合には、これを支払ったAOKI側には贈賄罪が成立しうるため、この二つの犯罪が問題となっています。ポイントは、コンサルタント料として支払われた5100万円がどういった趣旨で支払われた金銭なのかという点です。受託収賄罪と贈賄罪とは?先程も触れたとおり、今回の事件では、元理事が5100万円を受け取った行為について受託収賄罪(刑法第197条第1項後段)が、賄賂とされる5100万円を支払った行為については贈賄罪(刑法第198条)に当たるのではないか問われています。受託収賄罪とは受託収賄罪とは、職務を行う際に、求められた内容の職務を行うように依頼(請託)を受けて、賄賂を受け取ったり約束した場合などに成立する犯罪です。今回でいえば、将来の東京オリンピック組織委員会とのスポンサー契約を締結するにあたって便宜をはかることを依頼されて、2017年当時に5100万円を受け取った点が問われています。ここで、ポイントになるのは元理事が「公務員」にあたるのか? コンサルタント契約を締結し支払われた金銭が「その(公務員の)職務」に関連したものといえるのかという2点です。前者については詳しくは後ほど説明しますが、みなし公務員は法律上公務員として扱われるため、公務員に該当します。なお、本件ではAOKI側がみなし公務員として認識していなかったと主張しているため、こうした点も争点となり得るものと思われます。また、後者の職務関連性については、過去の判例では、職務行為だけでなく職務と密接な関係を有する行為への報酬として支払われた場合でも満たすものと判断しています。(大判大2年12月9日)そのため、どういった行為を期待して5100万円が支払われたのかによって職務関連性についての判断が変わる事になります。贈賄罪とは贈賄罪とは、受託収賄罪等における賄賂を送った側に成立する犯罪です。受託収賄罪と異なり、公務員以外にも成立する犯罪なので、今回のケースでいえば賄賂を送ったとされる側に成立の可能性のある犯罪です。みなし公務員とは?刑法第7条第1項において公務員とは、「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」であると定義されています。これに対して、みなし公務員とは本来はこの公務員の定義に当てはまらないものの、法律によって刑法上の公務員として扱われる者のことをいいます。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の場合、「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」に以下のような定めが置かれています。(組織委員会の役員及び職員の地位)”第28条 組織委員会の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。”このように刑法との関係では、組織委員会の役職員は公務員として取り扱われることが定められていることから、みなし公務員として前述の受託収賄罪の処罰対象となる「公務員」に該当することになります。その他にみなし公務員として扱われる業種としては次のようなものが挙げられます。日本銀行の役職員日本道路公団の役職員住宅金融公庫の役職員国家公務員共済組合の事務職員国立大学法人の役職員日本郵便の従業員などが挙げられます。この他にも、様々な職種がみなし公務員として法令で定められています。みなし公務員と契約・取引をした場合には?このようにみなし公務員の範囲は非常に広く、今回の事件でAOKI側が主張しているように、みなし公務員であることを認識しないで取引や契約を行ってしまったというケースは十分に考えられます。では、みなし公務員と契約をしてしまったというケースを想定した場合、どのような対応が考えられるでしょうか。なお、以下の点を確認して問題があると思われるケースでは早期に弁護士へ相談することをおすすめいたします。対価や業務は適切であったかチェックする今回の東京オリンピック・パラリンピックの事件において、KADOKAWAの件では支払われた7600万円に見合う業務の実態がなかったのではないかという点が問題となっています。今回のようにコンサルティング契約などを締結している場合に、その費用が不相当に高い場合には、何か他の狙いがあったのではないかといった点について疑義をもたれるきっかけとなります。そこで契約相手がみなし公務員であった場合には、委託した仕事や業務と対価が適切であったかを確認するのは一つのチェックすべきポイントといえるでしょう。接待などを行っていた場合には金額や内容をチェックする取引や契約には至っていない場合でも、その事前段階として接待等を行っているケースがあります。賄賂は金銭だけではなく、過去の判例によれば接待などのような飲食物の饗応も賄賂になり得ます。(大判大14年6月5日)ただし、どのような金額や内容のものであっても賄賂に該当するものではなく、判例においても5000円の小切手を公立中学校の担任に送った事案において犯罪の成立を否定した事例があります。(最高裁昭和50年4月24日)このようにケースや内容によっては、賄賂への該当性を否定されるケースもあるため、接待や贈答等を行った場合には内容と金額を確認したうえで専門家への相談を行うことが重要となります。