2023年2月9日、クラウド給与計算、クラウド会計などのサービスを提供するfreee株式会社が、「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方」とするプレスリリースを公開しました。このカスタマーハラスメント(カスハラ)に対する取り組みはテレビ東京系列のWBSでも紹介されるなどメディアで取り上げられると共に、SNSでも話題になりました。様々な業界・職種でカスタマーハラスメントは問題となっており、freeeの取り組みに共感の声を上げる書き込みが多く見られます。カスタマーハラスメントについてはこれまでも、女子の女子による女子のためのおしゃべりコミュニティ「ガールズちゃんねる」には、「今まで接客業で受けた理不尽なクレーム」というトピックが立ったり、ビジネスやキャリアの「今」を伝えるニュースサイト「キャリコネニュース」では「あなたが目撃した衝撃クレーマー」を募集して随時紹介するなど、カスタマーハラスメント被害の話題は当事者にとって共感できる共通の話題なのです。クレームとカスタマーハラスメントを混同しないところで、「カスタマーハラスメント」(customer harassment)は直訳すると「顧客からの嫌がらせ」です。クレームとは違うことを確認しておく必要があります。クレーム(claim)は苦情や難癖・不当な要求ではなく要求や主張を意味する言葉で、本来受け入れるべき正当な主張も含みます。クレームの対応窓口はカスタマーサービスやお客様相談窓口と呼ばれる部署が担当するのが一般的です。商品の欠陥や不良、改善すべきアドバイスなどの情報も集まり、商品・サービスの改善や新商品・事業のヒントにも繋がります。「お客様の声」を大切なものと捉え、それだけに経営者は「お客様は神様」と位置づけ、平成まではモンスタークレーマーの理不尽な要求や罵声にただただ耐えるよう求めてきました。令和の働き方改革でハラスメントを明文化しかし、令和になり相次いで働き方に関する法改正が続き、事業主には職場におけるハラスメント防止措置が義務化されました。これに伴い、厚生労働省はハラスメントについての定義を明確にして文章化すると共に、パンフレットを作成。また、ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」をオープンしました。ハラスメントの基本情報ページでは、ハラスメントの定義や類型・種類、関連する法律やデータなど様々な情報がまとめられています。令和2年に策定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」では、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮・取組を行うことが、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で望ましいと示されました。これを受け、カスタマーハラスメント対策についてまとめられたものが「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。一昔前なら無理難題やしつこい要求を繰り返す顧客をモンスタークレーマーやモンスターカスタマーと呼び、「人」に対する対応を議論していました。しかし、これでは「人」を特定できなければ対応できないことになります。ハラスメントを明確に定義したことで、個々の「行為」について対応することができるようになりました。対応を表明するだけで終わらせてはいけない実は、2022年にもカスタマーハラスメントに対する企業の意思表示が話題になりました。任天堂が製品の修理サービス規定/補償規定を更新し、「カスタマーハラスメントについて」の項目を初めて追加し、ゲーム業界メディアだけでなくNHKのローカルサイトなどでも取り上げられました。しかし、freeeの発表はカスタマーハラスメントに対しての対応を明確にしただけに留まりません。リリースでは、「従業員一同ならびにパートナー企業の皆様が安心してfreeeらしい顧客接点を提供するために『カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方』を作成しました」とだけ書かれていますが、実際には「社内用カスタマーハラスメントガイドライン」が策定され、実際の対応履歴とともに社内で共有しているというのです。ガイドラインを策定し、考え方・運用まで周知確認されて初めてリリースに至っています。freeeがこの方針をどのような経緯で作成するにいたったのか、どういう点に注意を払い力を入れたのか、何を参考に・何をよりどころに進めたのかなどは、freee公式編集部のnote「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方ができるまで」に詳しく記してありますので、是非読んで参考にしていただければと思います。今後、カスタマーハラスメント防止措置を講じ、対応を公開する企業は増えてくるでしょう。カスハラは、パワハラやセクハラと同様、職場における防止措置が義務化されたハラスメントの一つです。対策を講じていなければ、企業として安全配慮義務違反に問われる可能性があります。業種や業態、それぞれの対応する顧客もシチュエーションも様々です。それぞれの現場を交えて具体的な議論をしながら対策を講じましょう。参考までに、任天堂とfreeeがカスタマーハラスメントとする例を記載しておきます。任天堂社会通念上相当な範囲を超える行為のカスタマーハラスメントの例(これに限りませんとの注釈付き)威迫・脅迫・威嚇行為侮辱、人格を否定する発言プライバシー侵害行為保証の範囲を超えた無償修理の要求など、社会通念上過剰なサービス提供の要求合理的理由のない当社への謝罪要求や当社関係者への処罰の要求同じ要望やクレームの過剰な繰り返し等による長時間の拘束行為SNSやインターネット上での誹謗中傷freee「要求の内容が妥当性を欠く場合」または「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」に該当する行為をカスタマーハラスメントと定義精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)身体的な攻撃(暴行、傷害)継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)差別的な言動性的な言動従業員個人への攻撃、要求過剰要求(時間外対応の要求、不当に高額な金銭補償)プライバシー侵害行為上記に限らず、「顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの著しい迷惑行為」とみなされた場合同様の対応を行う可能性あり。